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「ボクサーの彼女」は変わった 『ロッキー』から40年、『クリード』のヒロイン像

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(C)2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

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真面目であることは、男らしさの妨げになるのか

スタローンが40年ぶりにアカデミー賞にノミネートされたことでも話題の『クリード チャンプを継ぐ男』。ストーリーは、元世界ヘビー級王者、アポロ・クリードを父に持つアドニスが、一度も会わぬまま他界した父の影を追ってプロボクサーを目指し、しかもその師として、父のライバルであったロッキーの元を訪れるというものです。

この物語では、アドニス(クリード)とロッキーの、それぞれの闘いが描かれます。

アドニスは、父親のアポロ・クリードと愛人の間に生まれた子どもでした。父を知らずに育ち、母の死後は里親の元や施設を転々としていましたが、子どものいなかったアポロの妻、メリー・アンに引き取られ、大学を卒業して就職もしていました。でも、アドニスはここではないどこかに自分の生きる道があると感じていて、会社勤めの合間にメキシコの地下競技場でボクシングの試合に自己流で挑んでいました。そして、夢を諦めきれず、フィラデルフィアのロッキーのもとにいくのです。

アドニスとロッキーは対照的です。アドニスは、引き取ってくれたメリー・アンが金持ちで、育ちも良い。父のライバルであり、父を苦境に立たせたロッキーに対して、復讐心を持たず、むしろロッキーに父の影を感じているくらい。恋人となるビアンカからも、「大学を出た喋り方ね」と言われるシーンがあるし、仕事をしていたときも何でもそつなくできて良いポストにもつくことができていました。対して、「ロッキーシリーズ」の若かりしロッキーは、不良で貧困の中にいて、ときにはギャングのもとで借金取りをしたりもしていました。そうした境遇がハングリー精神の元にもなっていました。

アドニスを見ていると、現代の悩みは貧困から生まれるわけではなく、ロッキーの持っていなかったもの(お金、学歴、血筋など)がすべてあることが逆に枷になるのだと感じました。

アドニスの対戦相手のコンランで印象的だったのは、かつてのロッキーのような貧困からくるハングリー精神も、アドニスの父のクリードのような「ボクシングは興業であり、観客に見てもらうためには、自分はヒールだったり客寄せパンダ役を演じても構わない」というエンタメ根性も、クレバーさもあって、ロッキーとクリードの性質の両方を持ちあわせていた点です。そういう意味では、アドニスは「いい子」すぎることで、ロッキーやアポロやコンランにはあって、自分にはないものがたくさんあり、それが彼のコンプレックスになっていたのだなと思いました。本作はそのコンプレックスを真面目に描き、「真面目であることは男らしくないのか?」「悪い部分がないと男と認められないのか?」と問いかけているようにも思えます。

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西森路代

ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクショ ン、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、 TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

twitter:@mijiyooon

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