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風俗店に「福祉」機能を期待し、押し付ける流れは間違っている。

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『なぜ「地雷専門店」は成功したのか? 業界未経験の経営者が超人気風俗店を作り上げるまで』(東邦出版)

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 「鶯谷デッドボール」という風俗店がある。「レベルの低さ日本一の風俗」という看板を掲げた、他店であれば「地雷(ブス・デブ・ババア)」とされる女性が集まるデリヘルだ。変化球を投げるこのお店が、いま注目を集めている。

 先日、「『奨学金返済のために風俗で働く女子大生』 社会問題を解決するために『風俗』を掲げる手法の限界」という記事で私は、「風俗がセーフティーネットとなっている」という言説への懸念を書いた。社会福祉が十分でない中で、風俗嬢になっていることを指摘するこうした言説は、「風俗がビジネス」であることを忘れているという点で、ズレているのではないか、というものだ。「鶯谷デッドボール」は、こうした「風俗セーフティネット」論の際にときおり言及され、注目を集めているわけだ。

風俗店が労働環境を整備することは、「福祉」なのか

 どういうことか。容姿の優れた女性が風俗店に採用されやすく、またお客さんに指名されやすいことは想像しやすいだろう。あるいは容姿が優れていなくても、コミュニケーション能力やテクニックが高ければ、やはりお客さんがつきやすい。だが、容姿が優れない、あるいは知的障害や精神障害を持っているために安定してお店にでられなかったり、コミュニケーションが円滑にとれなかったりすると、お店に採用されにくく、指名もされない可能性がある。

 そのため、履歴書と身分証明書さえあれば即採用される「鶯谷デッドボール」は、彼女らにとって都合が良い。食い扶持を手に入れられるという意味で、「セーフティーネット」の機能を持ってしまっているのだ。「デブ・ブス・ババア」という言葉だけをみると、露悪的で差別的な風俗店に見えるが、その内実をよくみると、結果的に「福祉」の要素を持つ風俗店となっている。「鶯谷デッドボール」に限らず、そうした評価のされ方がなされつつある風俗店、あるいは風俗の持つ機能が評価される動きがないわけではない。例えば、よく知られているのは託児所が用意されている風俗店だ。育児をしながら働く女性へのサポートとなっている。あるいは後述するが、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)で紹介されている妊婦・母乳を専門とする風俗店では、託児所だけでなく、ベビーシッターや粉ミルク、おむつなどをお店側が用意している。

 私は「鶯谷デッドボール」を肯定も否定もしない。しかし、先に書いたように、風俗店に「福祉的機能」を期待するような言説には強い違和感を持っている。繰り返すが、風俗はビジネスに過ぎない。消費者(多くの場合、男性だ)と労働者(女性がほとんど)がいて、経営する雇用者がいる。風営法や世間の目など、他の業種とは異なる要素も多数あるが、しかしビジネスであることにはなんら変わりがないのだ。

 以前、messyに掲載された「いま改めて問う『性風俗はセーフティネットか?』―福祉と風俗店経営それぞれの見地から」で、「鶯谷デッドボール」代表の篠原政見さんは、自身のお店についてこのように語っている。

「風俗店経営は利益を追求するビジネスなので、女性たちへの支援という考えは私のなかにはありません。ただ、性風俗で働けなくなり生きていけるかどうかのぎりぎりのラインにいる女性たちが、ウチに縁を感じて面接にきてくれたのなら、働きやすい環境を整え、長く稼いでもらうことで縁を返したい。そのためには、専属ヘアメイクも入れていますよ。容姿に自信をもって、もっと稼げるようになってもらうためです」

 一般企業で考えてみよう。企業は第一に利益を追求する。そのためには優秀な社員を増やせるような工夫をするし、別の企業に引き抜かれないよう、給料を引き上げたり、職場環境を整えたりするだろう。例えば産休や育休をとりやすくすれば、将来的に出産・育児を検討している人は、その企業に入りたいと考えるだろう。やる気もあがって生産性も高くなるかもしれないし、離職率も減るかも知れない。

 風俗店もそうだ。「困っている人を助けたい」から経営をしているわけではない。結果的に、困りごとの多い人が集まるので、その人たちの問題を出来るだけ減らして、稼げるようにするために、労働環境を整えているのに過ぎない。「鶯谷デッドボール」の試みが驚くべきものなのだとしたら、それは風俗業界が、労働環境を整備することに対して意識が低いだけという可能性がある。注目すべきはむしろそちらなのではないだろうか。

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