男性器によらない性的絶頂
「A-ウイルス」とは、外的要因で高揚(性的絶頂)を得ることによって感染者の身体そのものを武器に変容させてしまう病であり、「A-ウイルス」を発症し、自らの身体を自由に武器化できる者は「エクスター」、その武器を自由に操れる者は「リブレイター」と呼ばれます。彼らはその強大な力を恐れられるがゆえに、政府に「保護」という名目の隔離と監視を受けています。「A-ウイルスという女性しか感染しない病気を発症すると、性的絶頂を迎えることで武器になる」控えめに言っても、だいぶぶっ飛んだ設定です。
『VALKYRIE DRIVE -MERMAID-』を、メトニミー(換喩)的に「監督が金子ひらくのアニメ」と表すことも可能ですが、「キャラクター設定に“乳重”という造語とカテゴリーまで設けている百合おっぱいアニメ」であり、「女の子が性的絶頂を迎えると武器になる」というぶっ飛んだ設定ながら、蓋を開けてみれば、シスターフッドやレズビアン分離主義、女性が女性に欲望することの肯定がそこにありました。のみならず、互いが「エクスター」であり「リブレイター」であるというレズビアンカップル「レディ・レディ」の関係性など、異性愛男性視点以外からも視聴者を引きつける、ハイブリッドなクィアアニメでした。
中でも興味深かったのは、武器と武器を使う者の表象です。「女の子が性的絶頂を迎えると武器になり、その武器を使うのはパートナーの女の子」なのです。
ここにおける武器と武器を使う者、エクスターとリブレイターの間に、「武器は男根のメタファー」というフロイト的な読み込みは、介入することが困難になります。「女性の愛撫によって性的絶頂を迎えると武器になる女性」という表象は、妊娠につながらない女性の性であり、ファルスの介入しない性的絶頂だからです。
『VALKYRIE DRIVE -MERMAID-』における武器(「エクスター」)は、レズビアニズムによって男根のメタファーとしての武器をハッキングすること。「クリトリスのメタファー」といっても過言ではないかもしれません。もちろん、このレズビアン表象は、異性愛男性視点の窃視の欲望から無縁になっている訳ではありませんが、その視線は、「直接介入できない視線」として存在するのです。
歴史的に女性が多く使った武器、クィア的な武器、「産む」という女性性に基づく武器、「産む」という女性性と無縁の「クリトリスのメタファー」としての武器。
ジークムント・フロイトは、夢分析において、銃や剣といった武器類や、傘やステッキといった長い道具、蛇口や噴水などの水を吹き出すものは、夢の中では、「男性器」を象徴すると述べましたが、メタファー(隠喩)として読み解くだけでも、非ファルス的な武器はたくさんあるのではないでしょうか。
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