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「母親」が「人間」である以上。植本一子『かなわない』書評

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植本一子

植本一子『かなわない』(タバブックス)

 植本一子さんという写真家がいる。1984年生まれ。24歳年上の貧乏なラッパーECD(石田さん)と、2008年に結婚した奥さん。08年11月に長女を、10年6月に次女を出産した二児の母。私は一子さんと同世代で、彼女のブログ「働けECD」と、11年8月に発売された書籍『働けECD わたしの育児混沌記』(ミュージック・マガジン)を読み、“イチ・子持ち女”として勝手に親近感を覚えていた。それだけに、今年2月に出た新刊『かなわない』(タバブックス)の迫力には、驚いた。11年、12年、13年のブログ日記と、14年10月に自費出版した同名の本に収録した14年前半の日記およびいくつかの文章をまとめたものが、この新刊になる。

 一子さんは若い。20代半ばの、カメラマンとしてこれから、という時に結婚して子供を産んだ。それは「仕事を諦めて家庭に入る」という選択を意味するものではなく、「先に産んでから、仕事をガンガンやる」ためだったと思う。いざ産んでみると、想像以上に身動きが取れず、仕事に精力を向けようとしてもままならない。前作『働けECD わたしの育児混沌記』は家計簿であり日記だったが、プライベートな体裁をとるゆえ、後半どんどん「子育てが苦しい」という叫びが大きくなっていった。11年3月の大地震と福島での原発事故により、彼女の不安はさらに増幅する。

当たり前のお母さんを

 『かなわない』では、11年5月、保育ママを利用していた長女が区の保育園に入園できることになり、次女も保育室に預けられることが決まったあたりからの日々が綴られる。一子さんの感情は安定しない。良いときもあれば、悪いときもある。その繰り返しだ。良いお母さんをやりたい。けれど、仕事にも出たい。仕事はちゃんとやりたい。でも、仕事は家族に邪魔をされる。

『仕事はどんどん増やして行きたいし、収入源なのでやるべきなのだが、やはりこういう時に子ども達の側にいてやれないのは心苦しい。仕事で何かあった時、どうしても「子どもがいるから、育児が大変だから」という言い訳を自分にしてしまう。そんなことは百も承知で、結局周りに合わせてもらっているのでは、ただ甘えていることにしかならない』

 12年、長女が3歳から4歳、次女が1歳から2歳になるこの年、どんどん辛い描写が増えて行く。子供たちは基本的に月~土は家庭外での保育サービスを受けられるが、日曜は家で子供たちと過ごさなければならない。石田さんがいる日はよいが、不在の日曜日のたびに、彼女が“いかに悪い母親か”が、淡々と綴られて行く。

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