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『家、ついて行ってイイですか?』と芥川賞作家・羽田圭介にみる混沌と多様な人生の肯定

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『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京)公式サイトより

『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京)公式サイトより

「お家までのタクシー代をお支払いするんで……家、ついて行っていいですか?」

お決まりのセリフが毎回繰り返される番組、その名も『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)。私はこの番組が大好きだ。ターミナル駅前で終電を逃した人に声をかけ、冒頭のセリフで出演交渉する。そしてOKしてくれた人の家まで撮影クルーが一緒にいって、今の暮らしや過去・未来について、よもやま話を聞き出すという番組。土曜深夜ののんびりバラエティ番組だ。

“王道”じゃないリアルを映し出すバラエティ番組の、もう一つの顔

私がこの番組が好きな理由は「みんなそれぞれの道で頑張ってるんだなぁ」と思えるから。出演するのは、いわゆる世間の“王道“(極端にいえば、円満な家庭に育ち、順調に学校を出て、堅実に仕事をし、結婚して自分もまた円満な家庭を築き……といった、少し前のホームドラマに出てきそうな順調な人生)をゆく人ばかりじゃない。むしろその基準からすれば、なんだか変わった人が多い。一億人一億色で、人の数だけ暮らしの形がある。それぞれ悩みも、複雑な事情もある。見ていると自分の悩みを相対化できて、「世間は広い。何だかんだありつつ、頑張ろうじゃないか」と思えてくる。

かくいう私も、いわゆる“王道”組ではない。いや、正確にいうと王道組ではなくなった。大学に入るくらいまでは、世間がなんとなく敷いた“王道”のレールの上をひた走っていた気がする。ところが病気で大学を留年したあたりから、ちょこちょこレールから外れだした。なんとか大学を卒業して新卒で就職、レールの上にまた戻ったかと思いきや、病気退職してまたレールの外へ。医師の指示をうけての療養中とはいえ、肩書で言えばニートだ。その良し悪しはまた別として、レールからは外れたといって間違いないだろう。

その後再就職し、結婚した。でも結婚して4年以上が経った今も、子供はいない。私達夫婦は、そのことを悲劇とはとらえていないし、実際二人でも十分楽しい。でも、当然のように聞かれる「子供はまだ?」に居心地悪く感じることはあるし、そんなときは「やっぱりレールの外か」と、ぼんやり考える。

そんな私自身の事情も、この番組に惹かれる要因かもしれない。

これは憶測だが、私に限らず、自分の人生に悩みや迷いを抱いている人が見ると、「あ、いろんな人がいるんだ。そういうのもありなんだ」と肩の力が少し抜けて視野が広がるのではないだろうか。

実際、先月お家を公開した28歳のスタイリストの女性はこの番組のファンで、毎回録画して見ているそうだ。いまは仕事で手一杯で結婚どころじゃない、と彼女は言う。「結婚も考えなくはないけど、今は無理。それにこの番組見てると、結婚してなくても女の人がみんな楽しそう。結婚じゃなくても幸せはあるんだなと思って。」

もはやただの娯楽番組の域を出て、人生を考えるうえでの材料となるコンテンツになっている。

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