メールフォームから教えて頂いた、ちょっと特殊な呼吸法というのを試しにやってみたら、けっこう咳がラクになりました。奥山村人です。
コメントや頂いたメールなど、いつも全てに反応出来なくて、なんだか申し訳ないような、心苦しい気持ちになります。本文では中々反応出来ないというところもあるのですが、勿論全て読ませて頂いて、自分の人生の参考にさせて頂いております。暖かいコメントも、厳しいコメントも、いつも、ありがとうございます。
さて、夢を諦めるにはどうしたらいいのか? という質問だったのですが、大まかに分けて二種類の答えを頂きました。
・夢、諦めなくていい
・お前そもそも、才能ない
夢を諦めることと働くことは関係ないのでは? とりあえず働け、といったご意見が多かったような気もします。
あ、コンビニ8000字問題っていうのも盛り上がりましたね。
・もし気が向いたら、ちょっと近くのコンビニでも行ってみてください。そしてその道すがら感じたことから何でもいいので8000字程度の作品を書き上げてみてください。物書きの才がある人ならさらっとこなせるはずです。できなければ諦めた方がよいかと。
というコメントに端を発して、喧々諤々の議論になった、という……詳しくは、コメント欄をご参照下さい。ちなみに僕には、コンビニに行く道すがらに感じたことを8000字書く能力は、ありません。もし書いた人がいらっしゃるなら、ぜひ読ませて下さい。
さて、実はこのことに関係していることでもあるのですが、僕、たしかに「文章が湯水のようにあふれ出てきてしょうがない」みたいな、才気溢れる男では、全くないのです。それどころか、いつも書くのに四苦八苦しています。
何を書けばいいのか? どう書けばいいのか? そもそも自分に書くべきことなんてあるのか? 自分は、空っぽなんじゃないのか? どうせ僕なんかドストエフスキーの百万分の一なのに、文章を書いてなんか意味あるのか?
そんなことを思うと、何も書けなくなります。
青息吐息、七転八倒しながら、ようやく文字を埋めていく、というようなタイプなのです。ちなみに、この連載も大体、いつもまず自分で倍くらいの量書いてから削ったりとか、編集者からの指摘を受けて修正したりとか、色んな試行錯誤を経て掲載されているのですが、とにかく才能がないのでそういうことになっています。すらすら~っと文章が書けない。
それで、大学卒業後、三年半の会社員生活をしていたときも、書くことと仕事を両立させようとしなかった訳じゃないんですね。というか、なんとか両立させなきゃいけないと思っていた。
ところが、書けないのです。
一応マトモ? に社会人生活を送っていたときの僕はというと、それはもう深刻なスランプに陥っていました。
書けない作家志望
そもそも、社会人っていつ小説を書けばいいんでしょうか?
いや、わかります。終業後ですよね? でも考えてもみて下さい。
当時、平日だと、忙しくないときで、僕は大体19時~21時まで残業していることが多かったです。僕自身は、これは別に遅くも早くもない、わりと普通の残業時間だと感じていました。とはいえ残業するくらいなので、ある程度仕事には追われていて、会社を出る頃には頭は疲れています。例えば19時に仕事が終わるとしましょう。それから、晩飯を食べます。時間が惜しいので牛丼で済ませるとして。なんだかんだ、帰宅するのは終業から1時間半後くらいになります。汗をかいているので、風呂に入ります。それだけで、どれだけ早くても21時くらいにはなってしまっています。
ここから気合いを入れて何か書こう、というのが難しかったのです。
大体、文章を書くとなると、パソコンに向かわなくてはなりません。パソコンに向かう以上、椅子に座ることになります。しかし、朝の9時から19時までずっと座り続けて仕事をしてきたので、既に体が結構痛いです。肩は凝ってるし足はだるいし腰は痛い。しかし、痛いのかゆいの言ってるのは根性がないからだ、と思い直し、というわけでとりあえずパソコンの前に向かいます。すると「目が痛い」と思い始めます。なんせ一日中エクセルと睨めっこ、眼精疲労はピークに達しています。とにかく、全身が、パソコンに向かうことを拒否しています。眠くてだるくてしょうがないです。本当はビールでも飲んでごろんと横になってテレビとか見たり漫画でも読みたい。
そもそも僕は今日帰るときにちゃんと取引先にメール入れたんだっけ? 忘れたような気もする。不安だ。というか小説なんか書いてる僕はイタいんじゃないのか? 実社会で一体何の役に立つんだ? 惚れた腫れたの、死ぬの生きるの、馬鹿馬鹿しい。それよりボーナス出たしAmazonでなんか買おう。ビール買いに行ってタバコでも吸おう。いやいや。今は貴重な時間なんだ。小説を書かないと。しかし、この無職の主人公、こいつは一体、何をそんなに悩んでるんだ? なんだ? 人生の意味? ご託はいいから働けよ! こっちは毎日毎日うだつのあがらない仕事ばっかりしてすり減ってんだよ! お前に僕の気持ちがわかるのか! 殴るぞ!
大体、そんなことを考えてるうちに、二時間とか三時間とかあっという間に過ぎていきます。肝心の小説は一行も書けない、そんな日々でした。
休日にしたって、平日の睡眠不足と疲れが抜けなくて、昼過ぎまで寝ている、そこから溜まった洗濯物を片付けて、掃除して、なんてしていたらあっという間に夕方です。
これは、家で書こうとするから書けないんじゃないだろうか? そう思った僕は、生活リズムを変えてみることにしました。小説家の朝井リョウさんが会社勤めをしていた頃、出勤前に喫茶店で小説を書いている、というのを真似しようと思ったのです。早速、スタバでドヤろうと考えて、十万出してMacBookAirを買いました。
朝の五時半に起きて、毎朝二時間、出勤前にドトールでパソコンに向かいました。クソ眠かった。吐き気がした。小説の中の無職は一向に働こうとしません。数百文字書いたところでタイムアップ、仕事に向かいました。終業後も、家に帰らずに喫茶店で粘りました。コーヒーを何杯飲んでも、眠くてしょうがなかった。それに、オフィス街の喫茶店で、小説を書いているという行為がなんだかイタすぎるように感じて、結局集中出来ませんでした。それでも、その生活は一年近くは続けた。
そうだ、座ってる椅子が悪いんじゃないのか? と思いました。家でホームセンターで買った五千円の椅子に座っているから、集中出来ないのだ、という気がしました。そこでネットで評判を調べて、十五万する高級オフィスチェアを購入しました。書けませんでした。机が悪いと思いました。買いました。書けない。スピーカーが悪いから書けない。買っても書けない。何を買っても書けない!
今度は、住んでる部屋が悪い気がしてきました。風水がどうこう、とかではなくて、当時僕は社員寮に住んでいました。廊下で先輩とすれ違ったときに挨拶したり、最低限気をつかいます。もっと現実に注意を払わないでいい環境が必要なんじゃないのか? そう思って、引っ越しました。引っ越した先は、デザイナーズマンションでした。家賃は高かったけど、何かアーティスティックなインスピレーションが得られるんじゃないかと思いました。得られませんでした。
無駄遣いすることばかりに時間と労力を使って、それで肝心の小説は一向に完成しません。
僕「僕はバカなんだろうか……?」
友人K「お前、会社辞めた方がいいよ」
友人Kがうんざりしたように言いました。飲みや旅行に誘われても、僕は大体いつも断って小説を書いていました。
友人K「就職してからのお前の話、小説が書けないって話しか聞いてない。飲んでてもクソつまんねーからさっさと辞めろよ」
たしかに……小説を書くという行為は、趣味というには随分特殊で、つまりたいした話題になりません。現実的には、どこにも行かずにただパソコンの前に座っているだけ。そして、インプットではなくアウトプットです。だから、僕の中には何かが蓄積されることはなく、ただすり減っていくだけでした。それは真空みたいな時間の過ごし方です。会社と家の往復、あとは真空、これでは僕には、何の話題もありません。肝心の仕事が面白かったり、一生懸命に打ち込んでいたりすればまだいいのですが、そうでもありません。僕は大分、つまらない人間になっていました。
働きながら書くのは、とにかく体力的につらかった。なのに、全然小説は進まない。無職の主人公は延々と思索にふけっているばかりで、僕は毎日、うんざりしていました。小説を書くのは、心の底から苦痛でした。すらすらと文章なんて、書けたことは一度もありません。
夢と現実ってどこで折り合いをつければいいんだ
というわけで、僕は会社を辞めて現在に至る……ということになっているのですが、しかしそうも言っていられなくなってきたのが現在の状況です。
昔から本当に疑問に思っていることがあります。
実際のところ、コメント欄で既に指摘頂いたとおり、プロの小説家の方でも、兼業で他に仕事を持っている方というのは、珍しくありません。というか、かなり多い。働きながら小説を書く、ということをちゃんと両立して、それでプロとしてやっていっている人は現実に存在しているのです。
で、なんで僕は出来ないんでしょうか?
根性が足りない……根性は足りないんです、たしかに。僕の言っていることは、それはもう、甘い、自分でもそう思います。でも根性ってどうやったら増やせるんでしょうか?
根性のせいなのか、もしかしたら他に何かコツがあるのか……。
もし働きながらも夢を諦めないとしたら、働きながら書くことを両立させる、そんな方法を自分の中で開拓する必要がありそうです。それぞれ別のことを同時並行でやる、そんなマルチタスク人間になるのです。そのように、脳を慣らしていく必要があると感じました。
そこで深夜、素数を数えながらコンビニ8000字問題に挑んでみました。
「11743……コンビニに行くと……11777……そこに生き別れの兄が……11779……コンドームを買っていて……11783……彼女はブス……11789……自殺したい……」
何が凄く努力の方向を間違っているような気がしてきました。斬新な現代文学として、1万年後に評価されないだろうか……? と一瞬思い、寝言は寝て言え、と自分で自分に突っ込んで、それから、寝ました。僕は一体これからどうなるんでしょうか……五里霧中……暗中模索……一寸先は闇……。