インタビュー

無戸籍者を生む法律の穴=「嫡出推定」「再婚禁止期間」は離婚した女性への「懲罰」である/『無戸籍の日本人』著者インタビュー(前編)

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 近年、「見えなくなっていた人たち」に光が当たりはじめている。貧困状態にある女性、シングルマザーやその子ども、セックスワーカー、貧困や虐待が原因で住民票がある自治体とは別の土地に住み、学校にも通えず、「いない」ことになっている居所不明の子どもたち。ずっと以前から社会のなかに存在していたいにもかかわらず、目を向けられず、身を隠すように生きてきた人たちの声が少しずつ社会に届けられるようになってきた。

 ここに、最も「いないこと」にされてきた人たちがいる。彼らには、戸籍がない。戸籍がなければ自分自身を証明できず、結果、過酷な人生を強いられる。『無戸籍の日本人』(集英社)の著者、井戸まさえさんのもとには、きょうも電話がかかってくる。戸籍がないことで人生に行き詰まっている成人男女から、あるいは子どもが無戸籍になってしまうと怯える父母たちから。13年間で相談に乗ってきた無戸籍者の数は、1,000人以上にのぼる。

 なぜ彼らには戸籍がないのか? よほど特殊な運命のもとに生まれてきたのかというと、決してそうではない。本人の意志とは関係なく、法律の落とし穴にはまってしまうのだ。その法律とは、離婚後300日以内の女性が産んだ子は前夫の子とする民法772条。〈300日ルール〉といわれることもある。

 みずからが「無戸籍者の母」となった経験もある井戸さんは、彼らの支援をしながら、「これは離婚した女性への懲罰として機能している法律です」として、この法律の廃止を訴えている。

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『無戸籍のにほ』井戸まさえさん

ーー離婚後、新しいパートナーとのあいだに子どもを授かった。そのパートナーの子だとはっきりわかっているにもかかわらず、離婚後300日以内に産まれた子は、前の婚姻中に妊娠しているがゆえに前夫の子とみなされ、嫡出子としてその戸籍に記載される……井戸さんのお子さんもこの「嫡出推定」によって無戸籍の落とし穴に陥りましたが、DNA鑑定で父親を明らかにできる時代にこれはナンセンスでは?

井戸まさえさん(以下、井)「私の場合、予定日はもっと遅かったのですが、早産だったので300日以内に産まれ、自動的に前夫の子とみなされました。出生届を出せば前夫の戸籍に入ってしまう、それを認めるわけにいかないので出生届を出せない、でもそうすれば子どもが無戸籍になってしまう……。前夫が自分の子ではないと認めればそれは避けられますが、さまざまな事情でそうできない人がいます。たとえば、前夫のDVから逃げてきた女性。そもそも離婚が成立していない場合もありますし、連絡をとったが最後、報復に怯える日がはじまります。子どもをそんな危険にさらせませんよね。自分と子どもを守ろうしてその子が無戸籍になってしまうとは、皮肉な話です。いまではこんなふうにナンセンスそのものですが、この法律が必要とされた時代もあったんですよ」

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三浦ゆえ

フリー編集&ライター。富山県出身。複数の出版社に勤務し、2009年にフリーに転身。女性の性と生をテーマに取材、執筆活動を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズをはじめ、『失職女子。~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで~』『私、いつまで産めますか?~卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存~』(WAVE出版)などの編集協力を担当。著書に『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。

twitter:@MiuraYue

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