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「女子」を脅迫して誰が幸せになるのか? 不安を煽り消費を促すキャンペーンは、女の自尊心を破壊するだけ

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キリン アスタリフトウォーターHPより

キリン アスタリフトウォーターHPより

 大手飲料・キリンビバレッジと富士フィルムのコラボ商品であるペットボトル飲料「キリン アスタリフト ウォーター」のセールスプロモーションが、物議を醸している。

 『東京タラレバ娘』は、首都圏で働く20代後半~40代前後の女性たちの間で「リアル!!!!」と共感を呼び爆発的人気……というわけなのか、その年代の女性をターゲットにするなら是非ともコラボしたい作品になっているのかもしれない。森永製菓も、『働くアラサー女性のための自然派おやつ「マクロビ派」のリニューアルを契機に、アラサー女性のリアルを描き彼女たちから絶大な支持を得ている人気マンガ「東京タラレバ娘」(講談社「Kiss」連載中)とコラボレーションを展開』している。

 さて、「キリン アスタリフト ウォーター」は新発売を記念して、東村アキコが漫画誌「Kiss」(講談社)で連載中の『東京タラレバ娘』とのタイアップ企画を展開している。タラレバ世代(アラサー)の女性向けにリリースした美容成分配合のドリンクということで、販促用のwebサイトでは、作品に登場するキャラクター「タラの白子」と「レバテキ」が檄を飛ばす。たとえば、タラが「女が年を重ねるにつれて知っておいた方がいいことをわざわざ教えてやろうっていう超・超・親切企画タラ」と商品を紹介し、内側からお肌をケアすることについて「先延ばしにすればするほどあとで自分が後悔するだけレバ」と煽る。さらに、Twitterでハッシュタグキャンペーン「#隠れタラレバ娘をあぶりだせ」も実施中だ。

 この一連のキャンペーンについて、一部から「不愉快」「絶対に買いません」「消費者をナメてる」と非難の声が上がっている。ちょうど一年前の2015年3月、首都圏で展開するショッピングセンター「LUMINE(ルミネ)」の“働く女性たちを応援するスペシャルムービー”が炎上した事件を思い出させる展開だ。

 『タラレバ娘』自体は、やけに自分を高く見積もって男を見下した態度のアラサー女性三人が、厳しい壁に突き当たりもがく姿が描かれており、説教的な側面を多く含みつつもギャグ要素も多いラブコメディだ。何が「リアル」かと言うと、彼女たちが少女漫画のヒロインでありながら優等生的でなく、強くも賢くもなくて足下グラグラの女性として描かれているところだろう。しかも基本的に、男も仕事も救ってくれない。自分で何とかしなければ明るい未来などやって来ないのだ。それでも内心、一発逆転を待望している彼女たちの甘えや弱さが、人間らしくて「リアル」なのだと思う。結果、読者たちが「刺さる」「殺傷能力高すぎ」と呻く事態になって、話題となったのではなかったか。

 しかしそうした本編のストーリー度外視で、タラとレバのキャラクターに毒舌を吐かせる部分だけを抽出したキャンペーンは、面白くもなんともない。そもそも富士フィルムのアスタリフトシリーズは、フィルムの研究開発によって培われた同社の化学技術をスキンケア化粧品に応用した、とことんテクノロジカルな製品であることがウリ。そこを前面に押し出すPR方法も可能であったはずだが、目先の話題性にとらわれて「美容ケアをさぼるとヤバイぞ~自己責任だぞ~」と軽いノリでの脅迫系PRに走ってしまったことは実に残念だ。

 今回は美容成分配合のペットボトル飲料だったが、バストアップ商材やダイエット商材なんかも同様だ。「バストが小さいので、彼が満足してくれないかも……」そんな“不安”を引っ張り出して、「男性はやっぱり、大きなおっぱいが好きなんです! そこでコレ! 飲むだけorつけて寝るだけでサイズアップ! これで彼も大満足、ふたりはもっとラブラブに♪」と畳み掛ける。あるいは「太った体で水着なんて着れませんよね? 夏までに痩せよう!」と、一面的な美意識をあたかも“絶対”であるかのように押し付けて、ダイエットサプリなどを売りつける。簡単にできる、誰でもできる、ただし効果には個人差があります。もううんざりである。女性に不安を植え付けて消費を促す美容商材は、一見すると「女の味方」であるような顔をしているが、その実、「女かくあるべし」と強要してくるモンスターのようなものだ。

 前出「ルミネ」の件も同様だが、“女性は美しい存在でなければならない”と強制してくる社会に無意識に従っているうちは、その理不尽な仕打ちに気付かない。個人が美しくなりたいと願うことと、外部が「美しい女には高い価値を与える。美しくない女は価値が低いので努力しろ」と圧迫することは全く別である。前者は自由だ。後者は束縛ではないのか。そんなルールに乗っかってやる義理はない。だが乗らないと呼吸がしづらい。そういう社会に私たちは生きている。

 話をキリン×タラレバのPRに戻すが、『タラレバ娘』本編では結婚が大いなる目標に設定されており、そうではない人生はまるで敗者のような世界観だ。そして「キリン~」の販促サイトには、美容努力を疎かにしていると敗者になることを感じさせる文句が並ぶ。

 若さや美しさを誉めそやす社会において、それらは女性の武装になる。若く美しいほど強者として君臨することが出来、権力を持つ。武器、つまり化粧やアンチエイジングやダイエットは多くの女性たちを励ますものにもなる。武装して戦おうとする女性個人を愚かだとは言わないし貶めようとは思わない。私もそうやって武装して強さを持ちたい一人だった。しかし若さは100%失われるし、容姿は加齢と共に変化していくものだから、やがて武力は剥奪される。特に、若さの消えた女性に対する風当たりの強さたるや。そうなる前に、良い男を見つけて結婚しておくことが世の中の正解とされているわけだが。このルールに則ることは、年齢を重ねた独身女性や、美しい容姿を持たない女性を嘲笑しても良いと了解するようなものだった。いい加減、そんなゲームから降りようではないか。

(ヒポポ照子)

ヒポポ照子

東京で働くお母さんのひとり。大きなカバを見るのが好きです。

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