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ホモソーシャルをひるむことなく悪と描いた『インサイダーズ/内部者たち』

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(C)2015 SHOWBOX AND INSIDE MEN, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

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イ・ビョンホン主演、韓国で900万人を動員し、R-指定映画では国内一位の成績をあげた『インサイダーズ/内部者たち』は、権力と反権力の抗争を描いています。

物語の冒頭で、アン・サング(イ・ビョンホン)がマスコミを前に、次期大統領候補のチャン・ピル(イ・ギョンヨン)と、ミライ自動車のオ会長(キム・ホンパ)の癒着を告発します。

その告発は、アン・サングがミライ自動車がピル大統領候補と癒着していることを示す極秘ファイルを入手したことがきっかけで準備が進められていました。このファイルを使ってのしあがろうと画策したサングは、兄と慕っている祖国日報の主幹イ・ガンヒ(ペク・ユンシク)にそのことを報告します。しかしガンヒはこの件に一枚噛んでいる当事者のひとりでした。ガンヒに裏切られたサングは、報復として手首を切り落とされてしまいます。冒頭の告発は、こうした経緯からずっと復讐の機会を伺っていたサングが行ったものでした。

一方、もうひとりの主人公である検事のウ・ジャンフン(チョ・スンウ)は、苦労して現在の職についたものの、コネも学閥もなく、出世の糸口を見つけられずにいました。サングがミライ自動車の極秘ファイルを持っていることを知ったジャンフンは、出世の道を駆け上るためにサングと組むことにします。大統領候補、財閥企業の会長、新聞社主幹といった権力者たちに挑んだ、サング、ジャンフンたちの運命は……。

というのが、大方のあらすじですが、この映画を見て、良くも悪くも日本では作れない映画だと思いました。

なぜなら、この映画には、<権力の持つ力を信じ、出世をすれば暮らし向きがよくなる、女が目の前にいれば欲望をむき出しにするという価値観>が残っていないと成立しないシーンがあるからです。もちろん、この映画を見るとき、私たちはフィクションとして、そういったシーンがデフォルメされたものだと思ってみることもできます。しかし、それはよその国の出来事だからであり、『インサイダーズ』のような価値観を持つフィクションを日本で制作するならば、リアリティを追求するというよりは、戯画的に描き、フィクションであると、強く感じさせないといけないでしょう。

とはいえ、かつてならば日本にも権力を信じる物語がありました。例えば、『踊る大捜査線 THE MOVIE』では、いかりや長介演じる和久平八郎が、織田裕二演じる主人公の青島俊作に「正しいことをしたかったら偉くなれ」と言うシーンがあります。それは今考えると、正しいことをしたくても、偉くなければかき消されてしまうことがあるという、世の中の歪みをついているわけです。

『インサイダーズ』にも、悪が権力を駆使して世の中を困らせることがあるからこそ、善も権力を握ってそれを駆使しないといけないというテーマが存在すると思います。ただしこの『インサイダーズ』の面白いところは、落ちぶれたヤクザのサングも、コネがなくて出世できない検事のジャンフンも、最初は、正しいことを行うために権力が欲しいわけではなく、復讐のためや出世欲を満たすことが原動力となっていた点です。

しかし映画の途中で、その目的が変化しつつあるとわかるシーンがあります。それは、祖国日報・主幹のガンヒが、ジャンフンから取り調べを受けている際に投げかけた、新聞記事がどのように作られるのかを教える一言がきっかけでした。彼は、取るに足らない小さきものが言ったことは簡単に曲げられてしまうけれど、権力を持ったものの言葉は曲げられない、ということを知っていたのです。

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西森路代

ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクショ ン、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、 TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

twitter:@mijiyooon

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