カルチャー

少女監禁事件をネタで消費する二次加害者たち 他者の痛みに蓋をする社会を浮き彫りにする『ルーム』と『スポットライト』

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(左:『ルーム』(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015)(右:『スポットライト』Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC)

(左:『ルーム』(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015)(右:『スポットライト』Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC)

映画『ルーム』の公開初日、私は急かされるような気持ちで映画館に足を運んだ。初日だというのに有楽町のその大きな映画館は観客もまばらだった。

『ルーム』は17歳の時に誘拐され犯人の自宅の納屋に7年間監禁されている女性ジョイと5歳の息子ジャックを主人公とした物語だ。ジャックは犯人から無理やりに強いられ続けた性行為の結果、身ごもった子である。彼女は犯人への憎しみを息子にぶつけることなく、慈しみ育てた。ジョイはわずか19歳で、6畳程度の小さな部屋でひとり出産し、隔離されたその空間の中で様々な工夫をこらしながら彼を心身共に健やかな子どもに育て上げたのである。ジャックはジョイにとって希望だった。その全てが彼女の強さ、賢さ、犯人の卑劣な行為に決して汚されない高貴な人間性を示していた。私の何席か空いた隣に座っている女性は終始鼻をすするような音をたてていた。

被害者を責める暴力的言説

今年3月下旬に、自宅前で略取され犯人の男性の家に約二年間監禁されていた女子中学生が逃亡し無事に保護された事件があった。犯人は彼女を誘拐した後、西千葉から中野に転居しており、ワイドショーでは「逃げようと思えば逃げられたのにそれをしなかったのは、彼女が犯人と親しくなったからでは」という言葉がコメンテーターの口から飛び出した。その上ネット空間では、書くのも憚られるような下卑たジョークや身勝手な憶測、被害者の女子中学生に対する下劣な罵倒を書き込む人たちがあとを絶たなかった。

いわく「これ監禁じゃなくて家出して転がり込んでただけじゃないかな?」「彼氏が嫌になったから監禁されたとか嘘ついてんだろ、男が気の毒」「2年もいたなんて案外居心地良かったんじゃないか」。いわく「自分も家でJCが待っていると思ったらもっと頑張れる」「不謹慎と思いつつ『うらやましい』という意見に同意してしまう」など、好き勝手な言説が満ち溢れていた。それは次第にエスカレートして、自身の小児性愛的傾向を過激に表現しあうネタ合戦のような様相も見せ始めた。

このような人たちが『ルーム』の主人公ジョイが救出されて戻っていく世界に満ちていたらどうだろう。犯人とのあいだになした子どもを育てた彼女の行為をとりあげ、「彼女は被害者ではない」と邪推し、加害者に共感してむしろ彼女を責め始めるのではないか。

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