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英語圏の腐女子文化~知られざるスラッシュフィクションの世界

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『オトコのカラダはキモチいい』(KADOKAWA)

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 今回は英語圏のスラッシュフィクション(日本語で言うやおいやボーイズラブに近いもの)をとりあげていきたいと思います。最近では英語圏のスラッシュの話も少しは日本に入ってきていますが、日本語で入手しにくい情報もかなりあります。前半では英語圏のスラッシュについてごく基本的な情報を簡単に説明し、後半では少しアカデミックに、フェミニズム・クィア批評系のスラッシュ評論の定番を紹介したいと思います。

スラッシュが好きな理由は十人十色

 スラッシュフィクションは主に男性同士の性的関係や親密な情愛を扱った作品を指す言葉ですが、広い意味では女性同士の「フェムスラッシュ」も含みます。主に二次創作で使用される用語で、所謂「キャノン」(正典、原作のこと)では、とくに明示的な恋人同士などではない男性キャラクター同士の関係性に親密度を加えて想像するファンタジーがスラッシュです。スラッシュのファンの多くは女性であると考えられており、映画やテレビドラマはもちろん、マルクスとエンゲルスのような歴史的人物まで、あらゆるものが創作の対象になります。

 性別による権力差があからさまに表れてロマンティックな雰囲気を殺いでしまうことも多い異性間のロマンスに比べて、互角にやり合う対等なバディ同士の親密さをロマンスに読み替えられるところがスラッシュの魅力だと私は思っています。スラッシュは、性別による力の不均衡が抹消されたところに親密な関係が立ち上がってくる非常にユートピア的なファンタジーと言えるかもしれません。

 ただ、これだけがスラッシュの魅力とは言いがたいでしょう。単純にイイ男がいっぱいいるほうが楽しいにきまっているから、というのも大きいと思います。また、ジャンルの問題として、子どもの頃から海外ドラマや海外の映画に憧れていた人のほうがスラッシュに走りやすいでしょう。ファン(女性の場合はファンガールとも言います)がスラッシュにハマる理由はいろいろでスラッシャーが10人いればスラッシュに関する考えが10個あると考えていいと思います。さらに、かなり各人のフェティシズムの領域に入り込むもので押しつけがましくなりやすいので、スラッシュの魅力はわかりやすく説明できる、というようなものでもないように思います。

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北村紗衣

北海道士別市出身。東京大学で学士号・修士号取得後、キングズ・カレッジ・ロンドンでPhDを取得。武蔵大学人文学部英語英米文化学科専任講師。専門はシェイクスピア・舞台芸術史・フェミニスト批評。

twitter:@Cristoforou

ブログ:Commentarius Saevus

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