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東大美女、アスリート美女に背負わせる「普通の女の子」願望

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武田砂鉄

武田砂鉄/論男時評(月刊更新)

 本サイトを読まれる方が日頃手にすることがないであろうオヤジ雑誌群(今回は新聞も)が、いかに「男のプライド」を増長し続けているかを、その時々の記事から引っ張り出して定点観測していく本連載。

 それにしても旅行会社・H.I.S.が企画した「東大美女がフライトのお供をしてくれる旅」には反吐が出た。正式な企画名は、「『東大美女図鑑』の学生たちが『あなたの隣に座って現地まで楽しくフライトしてくれる企画』」。フライトの間、東京大学に在籍する女子大生が隣に座って「行き先の街の成り立ち」などを教えてくれるという。そんなものは『地球の歩き方』でも読んで、こちらで済ませる。

 セクハラだとの指摘を受けて即日中止となったが、改めて反吐が出たのは、H.I.S.の対応である。彼らは、その中止を知らせる「お詫び」に、「皆様に、ご不快な思いを感じさせる企画内容でありましたことを、深くお詫び申し上げます」と書き、企画を取りやめることを決定した。こういった案件で重宝されるのが、なんの説明もなく終わらせることのできる「ご不快な思い」という言葉。この言葉は、なんだか企業側も大変だよね、だって、今は何をやっても世間が文句を垂れてくるからさ、という一定層の同情を生む。案の定、今回も「女子大生が無理やり参加させられたわけでもないのに、なんでもかんでもセクハラにするな」という鈍感な擁護が散見されるのだった。

「車の運転に慣れるために、朝、お母さんに助手席に乗ってもらって駅まで運転しています」

東京大学・工学部3年(『東大美女図鑑』Vol.3)

 「東大美女図鑑」は、東大内のサークルから生まれた企画である。2013年に、東大文科一二類26組のクラスメイトを中心とした男女で活動を開始、「『勉強一辺倒で大学生活を楽しんでいない』という従来の東大女性のイメージを打破し、東大女性と東京大学のイメージアップを図る」(公式サイトより)ことを目的としている。写真誌『東大美女図鑑』を定期刊行し、「知性と美を兼ね備えた『東大美女』たちに撮影・インタヴュー」を行なっているという。自ら「知性と美を兼ね備えた」と喧伝してしまえるところに、まだ備わっていない知性を指摘したくもなる。

 サイトにある「東大女子図鑑」の紹介文には「東京大学の女の子って、素敵な人が多いらしい。いったい、どんな人たちなんだろう。知性あふれる、手の届かない存在?それとも世間の女子大生と何も変わらない?」とある。驚くべきことに「東大の女子大生」は「世間の女子大生」とはひとまず分離されているらしいのである。そのスローガンに少しもそそられないので写真誌を購入することはしないが、掲載のサンプルページから文言を拾えば、上記にあるような、事務所チェックを経た後のアイドルインタビューのような平凡さ。少なくとも、あふれるような知性は感じられない。

 とはいえ、もっとも問題視すべきはH.I.S.である。学生サークルの取り組みをビジネスに引っ張り上げた彼らが、何でもかんでも文句を言ってくる「世間」って困っちゃうよねムードを高めた上で、「不愉快な思い」をさせたとしたらすいません、と謝罪し取り下げる。この不足した説明では、その矢が自分たちを通過して、企画に参加する女子大生に刺さりやすい。女子大生を活用しようとした側、企画を決裁した側の声が聞こえてこない。「H.I.S.企業行動憲章」には「1.社会に有用な旅行商品・サービスの提供」とあり、今回は社内の総意として「有用ではない」と判断したのだから、「8.役員・幹部社員の責務」にある、「役員と幹部社員は、原因究明と情報開示にあたり、自らを含めて責任を明確に」するべきだろう。「不愉快な思いをさせたので」は究明も開示もしていない。世間のせいにするんじゃないよ、と思う。とってもズルい。

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武田砂鉄

ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論──テレビの中のわだかまり』がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「SPUR」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。

@takedasatetsu

http://www.t-satetsu.com/

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