恋愛指南に振り回されるみやびは“バカな女”なのか?
いったん話をドラマに戻そう。
中谷美紀さん演じるみやびは、キャリアを追求していたら39歳になっていた。高校の頃好きだった同級生に再会したことで自分の人生を見つめ直し、「彼と結婚したい」と思う。ところが状況は厳しい。そこで、藤木直人さん演じる十倉から、スパルタ恋愛指南を受けるのだ。藁をもつかむ思いで十倉に言われるがままに「恋愛テクニック」を実践し、男性たちに振り回されては落ち込むみやびの姿は、見方によっては「バリキャリのくせに恋愛になると自分の無い、“バカな女”」と映るかもしれない。特に前半はコメディ要素が強いので、みじめだったり七転八倒したりするみやび像が色濃く出ている。
でも、実のところみやびは、各エピソードでいったんテクニックに従ってはみるものの、失敗しては「やっぱりなんか違う」と違和感を覚えて、軌道修正する。流されるばかりのバカな女、の一歩手前で自分を取り戻す。みやびにとって恋愛テクニックの実践と失敗は、“自分が本当に欲していることはなにか”を再確認する通過点に過ぎないのだ。
十倉も、一見好き放題アドバイスを押し付けてみやびをからかっている風で、実はみやびの辛さを理解し、肝心なところではしっかりと心に響く一言をくれる。
このドラマは、なんとなく強迫観念にかられて「恋しなきゃ、結婚しなきゃ」とテクニックに頼る女性のバカさを風刺しているのでは決してなく、現代において結婚したくてもしたくなくても生きづらくなってしまう女性の辛さと、必死に「好きな人と結ばれたい、幸せになりたい」と思い紆余曲折する女性の姿を、滑稽ながらも温かい視線で描いているドラマだと私は思う。
頑張ってきた女にとっての、最高のパートナー
先ほど書いた第4話、みやびが婚活パーティーで散々な思いをする回を観てモヤモヤしたまさにその翌日に、大学の友人の結婚パーティーに参加した。新婦は、超有名企業の総合職として働いていて、かつて私と一緒に「男は高学歴や有名な勤め先がモテることにつながるのに、女は逆な気がする。同じように頑張ったのに、なんか不公平だよね」と嘆いていた1人だ。
パーティーの企画の一つとして、新郎が「新婦の好きなところ」をプレゼンし始めた。「○○ちゃん、僕は、あなたのその聡明さ、類まれなる言葉のセンス、ユーモア、可愛さ、やさしさ……」とまぁ延々続くのだが、私は真剣に感銘をうけた。彼が「聡明さ」を1番目にもってきたことに、だ。
いくつか好きなところがある中で3つめか4つめに「知性」「聡明さ」が来ることは、まあある。でも、1番目に来たのは、私が聞いた限りでは初めてだった。新郎も優秀さがにじみ出ている男性で、彼が挙げた「新婦の好きなところ」は、彼が彼女の良さをしっかりと寸分の違いなく理解しているな、としみじみ伝わってくる内容だった。聡明さを愛されることは、彼女のこれまでの頑張りをまるっと肯定されることに他ならない。彼女はテクニックを駆使して聡明“なのに”愛されたのではなくて、テクニックなんて無しで聡明“だから”愛されたのだ。友人が、頑張ってきた女性にとってこのうえなく素晴らしい伴侶と出会えたことが、心から嬉しかった。
おそらく多数派ではない。でも、この新郎のように学歴や職歴に惑わされず、内面まで踏み込んできてくれる男性は、存在する。そしてそういう男性は、愛する女性を尊敬の対象にする。
尊敬の念が存在しないパートナーシップは、モラハラやDVなどあらゆる問題の温床になりやすい。健全な人間関係の根幹は、尊敬だ。
「頑張る女ほど損をする社会」はあまりに悲しい。頑張る女性の価値を見抜いてくれる男性が増えるのは切実な願いだ。
これは私の勝手な予想だが、テクニックをいろいろ試して七転八倒したみやびが、最終的にはテクニックから離れたところで、彼女の内面をみてくれる本当に好きな誰かと恋を成就させるか、「私は私の道をゆく」という決断をくだすか、いずれかになるのではないかと思っている。どんな形であれ、納得いく幸せをつかんでほしい。残り少ない回数ではあるが、金曜の夜が楽しみだ。
(吉原由梨)