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偏見解消後進国・日本が、『ズートピア』のジュディとニックに学べること

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心理学科の学生だった頃、「自分がどんな人間か見抜かれそうで怖い」といった反応をされることが不思議であった。心理学という学問の本質は「自分も知らなかったもう一人の自分を発見する」という類のものではなく、「多くの人が真実であると確信して疑わないものは実は人間の精神機能によって歪められて認知されているにすぎない」ことを立証することにあるからだ。特に人に対してもつ印象はその時の状況、置かれた立場に大きく左右されやすく、わたしたちが他者の本質を見抜くということは決してたやすいことではない。

例えばアメリカの心理学者ホーナーが1968年に行った実験がある。被験者たちに対して、試験の成績で一番を取ったのが男子医学部生である物語と女子医学部生である物語のいずれかを見せ、それぞれその医学部生がどんな人物なのかを質問する。すると、男子医学部生への否定的表現を行う被験者は9%であったのに対して女子医学部生に対するそれは65%という結果となった。この結果からホーナーは、女性の成功者の人格は否定的に評価されやすく、それが女性の成功恐怖、成功回避動機につながっていると説いた。

つまり、女性に聞き取り調査して、多くの人が「社会で成功することを望まない」「人に守られて生きていきたい」と答えたからといって、彼女たちが“生まれながらに”それを望んでいることを示したことにはならない、ということだ。彼女たちもまた成功恐怖を抱いている可能性を考慮しなければならない。

最も洗練されたポリティカルコレクトネス映画『ズートピア』

さて、大人気上映中の『ズートピア』は、肉食動物が進化したことによって、動物たちは食物連鎖から自由になり、肉食動物と草食動物が互いに共生を目指している世界を舞台にしている。伏線と回収の網を張り巡らす古典的な、しかし大変巧緻なストーリーテリングで、ネオテニー的顔貌(幼形成熟)を強調した動物キャラクターを中心に配し、初の小動物警官として大捕物を目指すまっすぐなウサギの警官ジュディと、ストリートスマートな詐欺師のキツネのニックが協力して事件を解決するバディものとして大成功している。

何よりも素晴らしいのが、そのストーリーの根底に一貫して「いかに我々は偏見から自由になれるか」というテーマが貫かれていることだ。既存のハリウッド作品は「そもそもが異なるのだから、ジョークに交えてお互いそのステレオタイプをぶつけあえば良いのだ」という価値観を元にエスニックジョークに満ち、キャラクター造形の多くを人種やセクシュアリティのステレオタイプ(社会心理学者オールポートが1954年に提唱した概念)に依拠していた。しかし現在『オデッセイ』『スターウォーズ』新シリーズのようにハリウッド映画では、Diversity(多様性)を担保しつつ、脱ステレオタイプを図る、偏見、差別を排した表現であるポリティカルコレクトネス(以後PC)を基調とする作品が急速に増えている。『ズートピア』はその系譜を踏まえた現段階においては最も洗練されたPC表現に満ちた作品である。

(注:ここからネタバレに入ります。気になる方は作品をご覧になってからお読みください)

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