まず安室は、今時珍しく個人SNSアカウントを開設せずメディア露出も少ないため、その姿はMV、CDジャケット、紙面、事務所が管理しているFacebookページ、ライブ、そして今月開始した「Namie’s Movie」などの最小限の場でしか確認することはできない。さらに、「普段考えてることを知られるのが恥ずかしい」と自身が作詞した曲は少なく、その内面に迫ることが難しい、偶像的な存在だ。
反対に浜崎は、女性ファッション誌『ViVi』(講談社)にて15年以上もの間プライベートや舞台裏をレポートする連載を持ち、近年では自身が投稿するTwitter、Instagramを開設。その上自ら作詞を行い、ライブ演出も先陣を切って携わる。浜崎は、デビュー当時から自身の心情や人間性を明かすことでファンの共感を呼ぶという、安室とは真逆のスタイルを取ってきた。
しかし、その姿を公開するたびに画像修正や整形疑惑が浮上するほど安定しないビジュアル、「空港芸」などと比喩されているビミョーな男性スキャンダル、ファッションリーダーだった面影もないほど年齢に似つかわない、なおかつトレンドでもない服装など、今までウリとしてきたプライベートや人間性が、ひとりの37歳の女性として“大多数からの憧れの存在”ではなくなってしまったのだ。その結果、今年3月に発売した『A BEST -15th Anniversary Edition-』(avex trax)はオリコン週間アルバムランキングで初登場9位。2001年から通算500万枚以上を売り上げ、オリコンアルバム歴代売上ランキング6位を記録している『A BEST』(avex trax)の15周年記念盤として発売したにも関わらず、無惨な記録となった。
とはいえ、2005年1月のUK TIMESのインタビューにて、安室は「アイドル時代の私は操り人形で、考える時間も権利も与えてもらえなかった。そしたら私の人気は3年前(2002年)に急落。親友さえも『安室奈美恵は終わった』って言ってた。でも、メディアに媚を売って人気を回復することは絶対したくなくて。もう一度歌を歌いたかったから1から這い上がってみせるって決めたの」と語り、浜崎も2015年8月放送の『SONGS』(NHK)にて、デビュー当時に肥大した自身のイメージに対し「本当の私は違う……」と感じていたことを明かした。
現在の彼女たちは、自身の思うままに好きなことを表現している。やりたいことをやった結果として、安室は大衆に受け、浜崎は一部のニッチな層のみに支持されたというだけのことだ。両者とも、とっくに “みんなに好かれるアーティスト”など目指していないし、そのような段階にはいない。にも関わらず、取り上げるマスメディア側が「あゆはビッグ・アーティスト!」という扱いを続けているから痛々しいねじれ現象が起こっているのではないだろうか。いまや浜崎は、万人の憧れの対象でなくとも“好きな人は好きなアーティスト”だと捉え直せば見方も変わってくるはずだ。
(夏木バリ)
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