インタビュー

壊れそうな赤ちゃん、プレミアムな母乳信仰。初めての出産育児はヤバい精神状態に/『れもん、うむもん!――そして、ママになる――』はるな檸檬さん【前編】

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 宝塚オタクの日常を描いた人気漫画『ZUCCA×ZUCA』(講談社)の作者、はるな檸檬さんが、今年3月、自身の妊娠から出産をまとめたエッセイ漫画『れもん、うむもん!』(新潮社)を上梓した。

 出産~子育てエッセイ漫画といえば、日々のドタバタや未知の出来事を笑えるタッチで描いたものが多い。はるなさんはかつて、同じ宮崎県出身の漫画家・東村アキコ氏のアシスタントをしていた時期があり、東村アキコ氏の『ママはテンパリスト』はそのジャンルの最高峰ともいえる。

『れもん、うむもん!』のプロローグによれば、担当編集Tさんから、はるなさんへの最初の依頼もテンパリストと同様、「子育て漫画」だったが、はるなさんは「どっちかっていうと出産経験が衝撃だったのでそっちの方が描きたい」と言い、「初めての妊娠・出産に戸惑い 身も心もズタボロになった 怒濤の日々のこと」を同書におさめた。絵柄はソフトでクスッと笑ってしまうところも多々あるものの、内容はかなりシリアスと言える箇所も少なくない。つわりに苦しめられた日々、出産直後に産院で経験したメンタル乱高下、母乳育児の苦しみ、母親との大喧嘩……妊娠・出産を経験した全ての人にとって、できれば思い出したくない記憶が呼び起こされる。だが一方で、当時こんな思いをしていたのは自分だけではなかったと知り、心強く思うことができるだろう。出産を控えた人、これから考えようとしている人にとっては、ここまでリアルな姿を見せられることで、ある種の覚悟ができるに違いない。

 今回、担当編集Tさん同席のもと、はるなさんにインタビューを行い、当時感じたこと、今あらためて振り返って思うことを率直に語っていただいた。ちなみに聞き手のブログウォッチャー京子と下戸山うさこはともに妊娠出産経験があり、『れもん、うむもん!』を涙なくしては読めなかった……。

(聞き手・ブログウォッチャー京子、下戸山うさこ)

無理してパワフル妊婦をやる必要はない

京子 妊娠初期、つわりはつわりでも『食べづわり』に苦しんだとありましたが、食べないとつらくなったんですか?

はるな そうなんです。ずっと口に何か入れておかないと気持ち悪くなります。でもすぐにおなかいっぱいになっちゃうんですけど、口に何か入れていないとだめ、という感じで、小さなおにぎりをラップに包んだものを冷蔵庫に入れておいて、ひたすらちょっとずつ食べたりしました。でも無理だなっていう食べ物も結構あって、脂っこいものや肉は嫌で、食べられてご飯とか、さわやかっぽいもの……冷やしトマト、もずく酢といった酢の物を好んで食べたくなる気持ちになることがなぜか多かったです。冷たくてつるっと入るそうめんも良かったです。
 でもこれも、食べたら食べたで気持ち悪くなるからなかなか……もずく酢も小分けパックを買ってその1つをツルッと、みたいな。それもまあ、一瞬で飽きちゃったんですけど。つわり中の食べ物は、ハマッてはすぐに飽きて受け付けなくなる、の繰り返しでした。

京子 妊娠初期はそのような食べづわりで、お仕事との両立も大変そうでしたね。常に『大丈夫、まだいける』と『もう無理』のせめぎ合いでしたか?

はるな これはもう気持ちの問題かなと思うんです。結局、精神論になってくるところがあるんですけど、体調にはとても波があるから、ずっと気持ち悪いっていうよりは『いまちょっと楽!』な状態と、『やっぱだめかも』の繰り返しなんです。また、周囲の意見や環境にも左右されますし。周りの人から『妊娠中は無理せず休んだ方がいいよ』とたくさん言われた人はすぐに休もうと思えるだろうけれど、身近な経産婦さんたちがすごいがんばっているのを見ていたり、同じ職場で出産1カ月前までバリバリ働いていた人がいたな、っていう人は、本人の体調的に無理なのに休もうとしないで頑張っちゃうだろうし……そういう前提条件によるという感じがします。

下戸山 周囲の声によるところは大きいですね。『妊娠は病気じゃないんだから』という声が大きいと、休むのは甘えだと考えて無茶してしまったり。

はるな そうそう。そこで『やんなきゃいけない』とすごく強く思っている人は、具合が悪くなっても『ここでもうやめよう』と自己判断できにくいかもしれません。周りの理解に尽きるんじゃないかな。それによって妊婦本人の気持ちはがらっと変わるので、割り切って休んじゃおうと思えるか、絶対に休んじゃいけないと思うか。でも妊婦の体調も胎児の状態も個々人で全然違うから、妊娠中の過ごし方としてこれが正解とかはないんじゃないかと思います。

京子 私はフリーなので本当に臨月の、出産1週間前くらいまで働いていて、産後も3カ月くらいでボチボチと仕事を始めましたが、本格的に復帰したのはやはり子供を認証保育園に預けられるようになった、出産翌年の春からです。下戸山さんは出産予定日の一カ月半前から産前休暇で会社を離れ、お子さんが一歳になる誕生月に保育園に預けて職場復帰しました。はるなさんは本当に出産直前まで自宅でマンガを描くお仕事をされていましたよね。復帰については、産む前にある程度、このぐらいから働きたいな……と想定する時期はありましたか?

はるな すぐに師匠の東村アキコ先生の話になってしまうんですけど、先生は、産後1カ月から週刊連載を始めたんです。新連載を……。そのとき私、アシスタントに入っていて、先生が床を這いながら仕事しているのを見てたから……こんな状況でも人ってやれるんだ、と思っていたんですね。だから私は前提条件が、東村先生ばりに頑張る前提になっていて。

京子 東村先生が『産後の働く女性』のロールモデルだったと。

はるな 先生はすごく体力があって丈夫な方なんです。一緒に旅行に行っても、朝5時まで遊んだあと、10時には起きて出かけたりとか、パワフルすぎてついていくのが大変なほど(笑)。それをロールモデルにしちゃっていいのかって、今思えばもともとの体力が全然違うんですけど、やっぱり常に心の隅にそれがあったので、やれるだけやってみよう、もっとつらい人はいるし、戦時中に比べたら……と。先生は『戦時中に比べたらこんなのね、全然大丈夫』っていっつも言うんです(笑)。

京子 東村先生を見ていたこともあって、産前から『産んでも働く!』というイメージでいた?

はるな そうですね。先生ほどタフじゃないっていうのは自分でもわかっていたので完全に同じにしようとは思ってなかったですけど、様子を見てできそうだったら産後3カ月くらいから描くのかな、と。結構、ほかの漫画家さんで体が強いタイプじゃない方でも、半年後から連載を始められていたりしていると聞いていたので、そのくらい……3カ月~半年で仕事を再開するかな、というイメージはありました

京子 実際その通りに?

はるな 結局、本格的に再開したのは生後9~10カ月後くらいでした。というか、産む前に終わらせておくことを予定していた単行本作業が終わらないまま、予定日の2週間前に帝王切開で出産することになってしまって。妊娠中、単行本の4カ月連続刊行という無茶なことに挑戦していて……なんでそんなことやろうとしたのかもう分からないんですけど(笑)、妊娠初期に『産後はちょっとゆっくりしたいのでやりたいです!』と余裕ぶっこいたこと言っちゃって。そしたら思いのほかつわりがひどくて初期は全然できず、中期後期も眠気やだるさやお腹の張りがあったりで仕事を中断することが多くて、終わらなかったんですよね……。

下戸山 産後、無事刊行できたんですか?

はるな できましたけど、どうやって完成したのか覚えてないんですよ……(笑)。産後1カ月、夫が仕事を極力休んで家にいてくれたので、その間にやったのかなあ……もう記憶がなくて、何でやれたのか……勢いかな。連続4冊刊行に加えて『タカラヅカ・ハンドブック』(新潮社)という雨宮まみさんとの共著のイラスト作業も同時期にやったみたい。6月に産んで、たぶん7~8月くらいに一気にいろいろやったんだと思います。でもまあ、なんかできましたね。今思うと、残っていた仕事を一通り終えられてよかったです。

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ブログウォッチャー京子

1970年代生まれのライター。2年前に男児を出産。日課はインスタウォッチ。子供を寝かしつけながらうっかり自分も寝落ちしてしまうため、いつも明け方に目覚めて原稿を書いています。

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