柴田 この本の最初に「アイカツやプリキュアというアニメコンテンツは、女の子が水色やパープルに行く前に人気だ」って書かれているじゃないですか。でもアイカツやプリキュアを楽しんでいる世代でも、人気キャラクター投票をすると、クールで俺TUEEEE系で才能があって綺麗で、要は憧れる対象のパープルキャラ(神崎美月さん)が1位になっている。だからそこはグラデーションなんじゃないか、と。
堀越 なるほど。
下戸山 無敵キャラへの憧れを持ち、やがて女児向けアニメからも離れていくと。うん。ピンク色の主人公って、一生懸命な努力家だったり、やや凡庸な形で描かれますよね。
柴田 やや凡庸。ですが、アイカツの主人公・星宮いちごは、ストーリーが進むごとに無敵キャラに進化していって、視聴者人気もそれに比例して増大しています。放送開始当初からトップアイドルとして存在していた神崎美月さんと肩を並べるぐらいのアイドルに成長すると、いちご人気は爆発します。他のピンクキャラだと、おばあちゃんが天才デザイナーで、ふんわりかわいい雰囲気なのに発言が辛辣な天羽まどかが2015年の人気投票で1位ですが、アイドル業界にめちゃくちゃコネがありそうな実家を持ち、後輩なのに辛辣な態度の彼女にはピンクの凡庸さはありません。
下戸山 だから、女の子も強いものが好きだよね。すごい思う。
柴田 そう、強いものが好きなんですよ!
堀越 あ、なるほどなるほど!
下戸山 自分の子や保育園のクラスメイトの女児たちに関して言えば、「強いものにめっちゃ憧れてるな」って思うんですよね、実感として。堀越さんのお子さんは、どうですか?
堀越 確かに、5歳くらいのとき保育園で男の子が「プリキュアなんか弱えーよ」とか言い出して、娘は「いやいやプリキュアの方が強えーし!」みたいな反論をしていたので。強い、っていうところに憧れがあるんだろうな、とは感じました。
柴田 なんだかんだで、プリキュアの主人公はピンクだから、ラスボス相手に最終形態に変身してウルトラハイブリッド戦士になるのもピンクなんですよ。ひとりだけ羽が生えたり服のヒラヒラやキラキラが増えたりして。だから、最終的にはピンクのキャラは一番強い。そういう意味もあって、ピンクキャラの人気も別に低いわけではないと思うんです。ただその、女児の中でも、ピンクの受け止め方がちょっと変化しているんじゃないかとは思います。か弱さの象徴ではなく、強さの象徴という方向に。
同時に、「プリンセス」という存在の受け止め方も、従来通りではなくなっていると思うんですね。かわいらしさではなく、強さ。プリンセスなんて超「俺TSUEEEEE」じゃないですか、お城に住んでいて権力を持っていて、美しくて強くてかっこ良い。お姫様というよりは王様に近い存在として、憧れの対象物となっていると思いますね。
下戸山 うん、プリンセス=キングみたいな。
柴田 とにかく権力は強い。
下戸山 この本の冒頭にもありますが、2000年からディズニープリンセスは、キャラクターとして商品化されたじゃないですか。一人一人のキャラが描かれた水筒とか弁当箱とか、タオルとか、いっぱい売られるようになりました。あそこに王子様は存在しない。で、あの商品群によって、「王子様によって幸せになるプリンセス」じゃなくて、「最高の権力の象徴であり幸せの塊であるプリンセス」みたいなイメージが固まったと思います。だから今の女児たち、プリンセスは大好きだけど、本っ当に「王子様」のことを意識してないんですよね。誰それ? みたいな。
堀越 そうですね、今の小さい子は、女の子の強さかっこ良さの象徴として、プリンセスに憧れているようです。プリキュアもそうだし、プリンセスも。あくまでも、自分の女の子としての素晴らしさを体現してくれる存在。それはティアラもそうだし、ドレスもひらひらもそう。キラキラも全部、それは女の子としての強さの表れ、みたいなイメージなんですよね。だから、「そこに男の子はいらない」んですよね。愛されるための表象ではないですからね、あのキラデコは。
下戸山 だから昔から言われてきた「プリンセス願望」や「シンデレラコンプレックス」とかと全然違っているんじゃないかなって。あくまで女児時代の話ですけど……。思春期を迎える頃にはまた捉え方が変わってくるかもしれない。
お母さんって大変そうだからなりたくない
柴田 私は、昔から「俺TSUEEEE」立場への憧れが強かったんですよ。「おままごと」でどんな役をするのが好きでした?
下戸山 覚えてないですね……。
柴田 私は「おままごと」でお母さん役をやらせてもらったことがないんですよ。いじめられていたので、お父さん赤ちゃんペットと、どんどん発言権のない役になっていき、最終的にはどんなことを話しても「犬はワンとしかしゃべれないから!」とたしなめられていたことを覚えています。だから、一度くらいは「お母さん役」やりたいなあと思っていました。お母さん役をやるのは、そのコミュニティで一番権力を持ってる子なんですよ。お父さんとか赤ちゃんの役を振られるのは、大体その派閥の中で格下。
下戸山 格下?
柴田 格下。
堀越 保育園カーストで?(笑)
柴田 保育園カーストで、ですよ(笑)。だって、家庭内で一番強いのはお母さんだから。まだ性別役割分業の考えなんてまったく知らない保育園児にとって、いつも家でのあれこれを取り仕切っているお母さんはめちゃくちゃ強い存在なんですよ。権力の象徴が母なんです。
堀越 あ、そういう見方もできますね。
柴田 おままごとの内容って、お母さんが主役じゃないですか。赤ちゃん役やお父さん役の人に、ご飯を作ってあげたり、「おかえりなさい」ってお風呂を沸かしてあげたり、寝かしつけやったりっていう。まるで甲斐甲斐しく世話を焼いているかのような演技をしながらも、その場を支配しているのはお母さん役の子。おままごとじゃなくて現実には、そういうお母さんの行動って無償労働になるんだけれど、おままごとにおいてはなんていうか、「高貴な者の施し」みたいなつもりでやっているように見えましたね。
堀越 お世話を焼くことで、「自分の方が上であって、より正しい」みたいな気持ちになれますからね。強さの表れとしてのお世話。
柴田 でも、その「お母さん役が強権である」という価値観は、やがて逆転します。私がそれを感じたのは中学生くらいだったかな、思春期に入る段階、要は社会化させられる第一段階で、「女の子は弱い方が得だ」ということを知らされました。