インタビュー

私たちの周りにも「涙の匂い」はある。人の“生きづらさ”に気づくということ/『夜廻り猫』深谷かほる氏インタビュー

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 彼の名は、遠藤平蔵(へいぞう)。立派な名前だが、猫である。野良猫で、いつもお腹を空かせている。なのに、「泣く子はいねが~」と夜の町を歩き、“涙の匂い”をキャッチしてはその人に声をかける。子どももいれば、老人もいる。働き盛りのビジネスマンや、子育て中の女性、人知れず苦労する若者もいる。いかにも打ちひしがれている人ばかりではない。なかには自分の涙に気づかずに、日々を生きるだけで精いっぱいの人もいる。

 漫画家・深谷かほるさんが2015年秋からtwitterで配信してきた8コマ漫画が、待望の単行本化。『夜廻り猫1 今宵もどこかで涙の匂い』(KADOKAWA)として、6月30日に発売される。猫の平蔵……ここでは尊敬をこめて「平さん」と呼ばせてもらうが、強面の平さんが織りなす人情味あふれるストーリーが、描きおろしの1話を加えた計102話収録されている。

深谷かほるさん(以下、深谷)「平蔵のキャラクター自体は3年ほど前にできていたのですが、そこからストーリーがいまひとつ広がらなくてお蔵入りにしていました。その後、家族が入院し、病院で時間を持て余していたときに、気晴らしに短い漫画でも描いてみようかと思い立って、平蔵のキャラクターを掘り起こしたんです。平蔵の顔、人によってはコワイと思うこともあるようですが、アシスタントさんが『かわいくないところがイイ』といってくれたのにも、後押しされました」

 たまたま持っていたサインペンで、たまたま持っていたコピー用紙に定規も使わずに描いた、記念すべき第一話。

深谷「それを見た息子が、『ツイッターにアップしたら?』っていい出したんです。当時はフォロワーの数も少なかったし、そんな多くの人に広まるという発想もなかったので軽い気持ちで上げてみました。なのに、結構な数の“いいね”をいただいたんです。それがすごくありがたくて! そこから毎日1話ずつ上げるようになったんですが、リツイートやいいねの数がどんどん増えていってたのには驚きました」

やらなくてもいい親切をやってくれる人

 平さんがキャッチする“涙の匂い”の出どころは、その人が抱えている「生きづらさ」。背景には、若者や女性、シングルマザーの貧困、独居老人、ジェンダーギャップなどなど、今日的な社会問題が盛り込まれている。一見「恵まれている」ように見える人が誰に知られることなく涙を流していることもある。

深谷「いまの時代、多くの人が困っているように見えます。みんなスレスレで生きている。一方で、自分のつらさに気づいていない人も多いと思うんです。ほかに選択の余地があったり、逃げ場を持っていたりする人は、『いま自分はつらいんだ』って自覚することもできますが、それすらなければ何も考えないことにしてしまうのではないでしょうか。つらいと感じる余裕すらない人たち。そんなときに人の親切に出会えるかどうかで人生がものすごく左右されることってありますよね。平蔵のように、報われないに決まっているのに他人に親切にする人も世の中には少なからずいますが、彼らにはあまり陽が当たっていない……。私自身、やらなくてもいい親切をあえてやってくれる人の存在に心から感謝しているし、励まされます。そういう人のことを描いておきたいんです」

 ここで、筆者の「ベスト夜回り猫ストーリー」を紹介したい。

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第10話「覚えておきます」

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三浦ゆえ

フリー編集&ライター。富山県出身。複数の出版社に勤務し、2009年にフリーに転身。女性の性と生をテーマに取材、執筆活動を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズをはじめ、『失職女子。~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで~』『私、いつまで産めますか?~卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存~』(WAVE出版)などの編集協力を担当。著書に『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。

twitter:@MiuraYue

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