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まるでホラー…女の「青い鳥探し」こそが男を震え上がらせる!

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『テイク・ディス・ワルツ』サラ・ポーリー監督 2011年

 前回『モテキ』を通して、男が描くはた迷惑なビッチ像について書き散らかしてみたが、今回は、「では女性監督が描く本当のビッチ像とはどういうものか?」を少し考えてみたいと思い、2011年の作品になってしまうが、サラ・ポーリーという私と同じ歳(現在34歳)のカナダ人監督が作った『テイク・ディス・ワルツ』という映画を取り上げてみる。

ビッチの幸福探し

 この監督さん、元々は子役の頃から活躍してる女優でもあり、大変美しい。しかし監督デビュー作『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』(06年)も、一見切ない老人の恋愛を描いてるようで、その救いのなさから、どうもその辺の今どきの女性監督とはなんか違うなと薄々感じてはいたのだが、今回の作品でそれは確信に変わった。女が本当に自分の欲望に素直に生きた様を描いた結果、コメディドラマのはずが、完全にホラー映画になっているのだ……。

 主人公はミシェル・ウィリアムズ演じるフリーライターの既婚女性。料理研究家の夫と、可愛らしいインテリアの一軒家で、情熱的ではないものの、一見誰が見ても穏やかで幸せな日々を送っている。夫が子供を欲しがらないことが少し不満ではあるけれど、夫婦仲はもはや親友のような関係で、トイレ中の姿を見られても平気なほどだ。

 そんな彼女が仕事で訪れた小さな島で、気になるイケメンと出会う。ちょっと惹かれたけどまあ旅先でのことだしすぐ忘れるだろうと思っていたら、なんとそのイケメンが実はご近所さんだと発覚。以降、仕事中(肉体労働)の彼にばったり会ってしまったり、うっかり遊園地でラブリーなデートをしてしまったり、アーティスティックな夢について熱く語られてしまったりで、不倫の恋がスタート。それまでの日常にはなかった刺激的な存在、忘れかけてた胸のトキメキ、主人公の思いは日々深まっていく……。

 ここまでは、さまざまな作品で何度も語られてきた、地味な主婦のちょっとした浮ついた心、「女だってたまには夢を見たいんです」と礼儀正しく訴えるような流れで、想像の範囲内、(男の)夢を壊さない程度のラブロマンスなのだが、この映画のすごいところは、その先だ。

 主人公は、ひたすら優しくビジュアルが冴えないこと以外には特に欠点がない夫(見ようによっちゃあ可愛いおデブさん)をあっさり見捨てて家を飛び出し、新しい男と新しい生活を送ることを選択! 肉体派のカレとめくるめくセックスライフをエンジョイし、溜まっていた欲望のビッグバンとしか言いようのない行動を取り出すのだ。

 もちろん、だから全ての女が実はこういう破廉恥な願望を隠し持っているのだなんて乱暴にまとめる気はないが、欲望のままに生きる彼女はちょっとかっこいい。

 ヒロインが家を飛び出したあと、元アル中の義姉は「そんな風に好き放題で一生やっていけると思っているのか、周りの人間を甘く見てたら痛い目に遭うぞ」と、彼女をこっぴどく糾弾する。もちろん、捨てた元夫のことを思って彼女の心も痛まないわけではない。監督自身もこのヒロインのような生き方が今の社会で簡単に許されるものではないとわかっているし、他人の非難も受け入れなければならないことは承知しているからこそ、このシーンを丁寧に描いている。それでも、誰にも遠慮なく本当に自分のやりたいことをやる、それがたとえ不道徳でも構わない、そんなビッチ(元・貞淑な妻だが)の生き様には、考えさせられるものがある。

 そもそも映画の序盤では、彼女はとっても「マトモな主婦」であり、ちょっと浮気心が芽生えて不倫をスタートしてしまってからも、そのまま破戒の道を突き進む素振りは見せなかった。「最後はあの優しいダンナの元へ戻るだろう」と呑気にかまえていた観客は、だから彼女の唐突な決断に度肝を抜かれたと思う。特に妻や恋人が一方的に自分を捨てる可能性なんてほとんど考えてない男性観客は、絶対に見たくなかったものを見せられた驚きと恐怖で震え上がるのではないか。その意味で、「自分勝手な女と、彼女に傷つけられた男」を描く同作は十分にホラーなのだが、この美人監督はそれだけでは済ませてくれない。

 映画は、ミシェル・ウィリアムズがぼーっとした表情で、台所で料理している男性の横に座り込んでいる姿から始まる。その顔は、不幸ではないがどこか退屈そうに見える。そして映画の最後も、自宅で何かしている男性の横で、ぼーっと空虚を見つめる彼女の姿で終わる。すでに、退屈しているのだ。

 『モテキ』では略奪愛が超美談のような大ラストを迎えていたが、好きな人と結ばれたからといって「その後もずっとふたりは幸せに暮らしました、めでたしめでたし」とはいかないのが人生だ。他人を犠牲にしてでも好きな人と一緒にいたいという自分の欲望に忠実に動いて手に入れた、想像通りの幸せな新生活なんてものは一瞬のまぼろしに過ぎず、それが日常になったとき、再び私たちは別の青い鳥を求め出す。このばかげた夢想を繰り返し、決して満たされることはない、という恐ろしい現実。生活が安定していようと容姿に恵まれていようとそんなこととは関係なく、幸せ探しをしてしまう私たちは、いつまで揺れ続ければ満足できるのか。

 決してわかりやすいハッピーエンドじゃないけれど、30歳も越えて、求め続けてきた理想の世界の先が、実はハッピーじゃないことに気付きつつ、でも自分勝手に生きずにはいられない現代の迷えるビッチたちのひとつの姿として、『テイク・ディス・ワルツ』は重要な作品だと思います。私の周りの男性にはことごとく不評ですが、たまには映画を見て思いっきりショックを受けてみるのもいいんじゃないでしょうか。

■gojo /1979年生まれ大阪出身、立教大学社会学部社会学科卒。2005年より自身のサイト「gojo」にて映画日記を執筆、2010年には蓮實重彦、黒沢清『東京から 現代アメリカ映画談議』(青土社)の出版記念トークイベントにてインタビュアーをつとめた。gojogojo.comで映画日記を更新中。

gojo

1979年生まれ大阪出身、立教大学社会学部社会学科卒。2005年より自身のサイト「gojo」にて映画日記を執筆、2010年には蓮實重彦、黒沢清『東京から 現代アメリカ映画談議』(青土社)の出版記念トークイベントにてインタビュアーをつとめた。「森﨑東党宣言!」(インスクリプト)に寄稿。gojogojo.comで映画日記を更新中。

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