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生理中の女性は万引きし、放火する…。昔からあった婦人科系トンデモの世界

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 要は〈心理、知的、道徳的に月経の支配下にあり、毎月異常な状態となる女は弱い存在なので男の庇護下にあるべき〉と主張したいがためのお説であったと、同書で解説されています。権力は男が独占し、当時の重要案件である〈富国強兵〉を支えるため、女は徹底して家庭に入り産んで子を増やして育てあげてねという生き方を強いるのが目的という。

 さらにひたすら笑うしかない経血研究の話も紹介されています。それは〈月経期の血液・唾液・尿・汗・母乳・涙・吐息に含まれる毒素が植物を枯らす〉というもの。布ナプキンを洗ったあとの経血入りの水を植物に与えるなんて話がありますが、当時だったらテロ行為ですね。いやいや、現代でも公衆衛生的に十分テロか。古代ローマの「博物誌」では、経血に触れると植物は枯れ、金属は錆び、犬は発狂、その犬にかまれると不治の毒に侵されるといいます。経血が、ラピュタの「バルス」並みの破壊力を発揮!

 昭和初期に発行された『犯罪科学』では、経血の有効利用方です。経血を塗ると、痛風、甲状腺、腫瘍、唾液腺炎症、丹毒(皮膚病の一種)、せっそう(切り傷)、産褥熱、狂犬病、癇癪、頭痛、不妊に効果があるといいます。塗るだけでなく〈パンに包んで食べると催淫剤になる〉なんてものも。わあ、オールマイティな経血の神秘~。

月経を過剰演出する人たち

 しかしこれを紹介した医師が当時の世相について「迷信を排除して科学に頼りつつ、化学的な言葉には一にも二にも麻痺して過信する」と語っていたとのことで、広めた本人が、これらの月経話は婦人科系ニセ科学であることを認めていた気配が濃厚です。とっくに鬼籍となっているであろう当時の医師も、21世紀の現代で〈紙ナプキンの化学物質が性器の粘膜から吸収され、子宮に毒がたまって生理痛がひどくなる〉なんて月経ニセ科学が未だ存在することを知ったら、さぞかし驚くことでしょう。

 そもそも日本においては月経を不浄視する文化はありませんでしたが、仏教の輸入とともに穢れ設定になったそう。室町時代には〈女は経血で地神や水神を汚すので血の池地獄へ落ちるが、血盆経(けつぼんきょう)を信仰すれば救われる〉という宗教もお目見え。悪事を働いたのならともかく、自分ではどうしようもない、しかも生理現象にケチつけられてもなあ(笑)。とにかく月経にケチをつけまくることで女性を蔑視し、男が権力を独占していた事例が同書にはぎっしりです。

 冒頭の月経神秘派は、これらの月経がタブー視されていた時代もちゃっかり引き合いに出し、〈月経をポジティブにとらえることが、温故知新なこれからの時代の女!〉と持ち上げたりもします。しかし利益宣伝のために月経に過剰なイメージを植え付けることは、このような残念すぎる歴史とやっていることの根っこは同じ。いのちは全て、神秘で尊くてあたりまえ。月経は生殖と健康のため、上手に付き合いましょうね程度でいいんじゃないでしょうか。踊る阿呆に見る阿呆……は阿波踊りだけにして、過剰な演出の月経話には乗らないほうが無難というものです。

(謎物件ウォッチャー・山田ノジル)

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山田ノジル

自然派、エコ、オーガニック、ホリスティック、○○セラピー、お話会。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のないトンデモ健康法をウォッチング中。当サイトmessyの連載「スピリチュアル百鬼夜行」を元にした書籍を、来春発行予定。

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