インタビュー

「家族は、互いに助け合わなければならない」の何が問題? 憲法第24条改正によって社会保障がなくなるかもしれない。/山口智美×杉山春【1】

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『社会運動の戸惑い』(勁草書房)

『社会運動の戸惑い』(勁草書房)

2016年7月10日行われた第24回参議院選挙によって、改憲派政党は3分の2の議席を獲得、2012年以降ささやかれてきた憲法改正が現実味を帯びてきました。改憲といえば真っ先に憲法第9条が思い浮かびますが、自民党の憲法改正草案では9条以外の様々な条文に変更が加えられています。その中でも特に注目したいのが、「婚姻」や「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」のあり方を示した憲法第24条の改正案。自民党の改正草案には「家族は、互いに助け合わなければならない」という一文が書き加えられおり、messyではこれまで「家族に対して過剰な負担を強いるのではないか」と繰り返し警鐘を鳴らしてきました。

改憲が現実味を帯びてきた今、自民党改憲草案における憲法24条の改正の何が問題なのか、そして改憲を求める人びとはどんな人たちで、なにを考えているのかをしっかりと知る必要があります。そこで自民党による「憲法24条」の改正に懸念を示されてきた文化人類学者でフェミニストの山口智美さんと、貧困や虐待、引きこもりなどに関する書籍を執筆されているライターの杉山春さんに対談していただきました。【全3回】

家族が法律でがんじがらめになる!?

杉山:私は、旧満州国(中国東北部)に開拓民として送られた若い女性たちの話をまとめて『満州女塾』(新潮社)という本を1996年に出しています。当時、国は家族単位で満州に開拓民を置いたにもかかわらず、太平洋戦争末期、この土地を守るはずの関東軍は南方に転戦し、開拓地の男たちは「根こそぎ動員」されます。1945年8月9日に、日ソ中立条約を破棄して、ソ連軍が満州国内に侵攻したとき、そこには女性と子どもたちが大勢残されていました。そのとき女性たちがどのように逃げたのか、あるいは逃げられなかったのか。ひと冬をどう越えたのか。どのように子殺しが起きたのか、といった話を聞きました。なかには、性的に中国人男性の妻になって命を長らえた女性たちもいます。翌年、帰国してきたとき、国は「極秘の場所」を作り、妊娠して上陸してきた女性たちのお腹の子どもをおろしてから、故郷に帰しました。天皇制の下、富国強兵を目指して「産めよ増やせよ」としてきた日本では、中絶は厳しく取り締まられていたからです。

山口:酷い話ですね。

杉山:国はいざとなったら女性も子どもも守らないし、女性はそんなとき性を使って生き延びなければならない状況になる、ということをそのとき知りました。慰安婦問題は家庭の外の性を担った人たちですが、国は家庭内の性も戦争時に使った、という意識が私にはあります。その後、風俗で働いていた女性が子どもを虐待した「大阪二児置き去り事件」について『ルポ虐待 大阪二児置き去り死事件』(ちくま新書)という本も書きました。当時、親を責める報道がありましたが、社会の仕組みを考えると、そうならざるを得ないような流れがあった。そういうことを今、講演などで話しています。今日お話を伺う自民党改憲草案の憲法24条もこうした事件と関係があると思うんですね。まずは問題を整理するために、自民党がどのように憲法24条を改憲しようとしているのか、なにが問題なのか教えていただけますか?

自民党改憲草案 第二十四条
1 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、 相互の協力により、維持されなければならない。
23 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
※赤字は自民党改憲草案で追加された箇所。青字および取り消し線は削除された箇所。(参考:http://editorium.jp/blog/2013/08/04/kenpo_jimin-souan/

山口:まず、何が変わるのか、現行憲法と比較すると「家族保護条項」として「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」という一項が新たに追加されています。また、現行憲法の「婚姻は、両性の合意のみに基づいて」の「のみ」も、自民党改憲案では外れています。そして「配偶者の選択」が消されて「家族、扶養、後見」が追加され、「住居の選定」も消されている。

杉山:私が理解しているのは、家族の形は個人の意思で維持出来るものではなく、産業形態で変化するということです。農業など、家族で経営しているなら、使用人も含めた大家族がいい。しかし、企業が個人を雇用する形で社会が成り立つなら、核家族が適している。社会のあり方で、人の繋がり方も変わると思うんです。憲法で規定することは家族のあり方にどれだけの影響を与えるのでしょうか?

山口:憲法が変わると、それに従った法律が作れるようになりますよね。「住居の選定」が抜ければ、自民党が推進している「三世代同居」のような政策を個人の尊厳に基づかない形で強化して、例えば「三世代同居していない人は税金が高くなる」といった政策を出すことが可能になるかもしれない。あるいは「家族保護条項」が入れば、国は「基本単位である家族が互いに助け合うべきだよね」と言って社会保障をなくしてしまうかもしれない。「婚姻は、両性の合意のみに基づいて」の「のみ」が外れれば、他の誰かが「結婚/離婚しろ」と言うことだって出来るようになるかもしれません。

杉山:親とか国家とか?

山口:はい。親もそうですし、政府とか、行政とか。離婚させたくなかったら、離婚しにくいように法律も、行政の施策も変えられるじゃないですか。

杉山:「この家族は、男性、あるいは女性の役割をちゃんと果たしていない。それぞれの役割をきちんと担えば離婚せずに済むはずだ」と外からジャッジが入る可能性もある、と。

山口:実際に何をするのかはわかりませんが、自民党改憲草案通りの24条になれば、そういった方向に進む可能性はあると思います。その上、改憲を進めている人たちは24条を変えると同時に「家族基本法」を作ろうとしています。基本法が出来れば、家族をがんじがらめにするような個別法がどんどん出てくるかもしれません。

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