インタビュー

サザエさん一家から外れた家族を許さない!? 家族規範の強化は、社会的弱者をより追い詰めていく。/山口智美×杉山春【2】

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『家族幻想: 「ひきこもり」から問う』(ちくま新書)

『家族幻想: 「ひきこもり」から問う』(ちくま新書)

2016年7月10日行われた第24回参議院選挙によって、改憲派政党は3分の2の議席を獲得、2012年以降ささやかれてきた憲法改正が現実味を帯びてきました。改憲といえば真っ先に憲法第9条が思い浮かびますが、自民党の憲法改正草案では9条以外の様々な条文に変更が加えられています。その中でも特に注目したいのが、「婚姻」や「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」のあり方を示した憲法第24条の改正案。自民党の改正草案には「家族は、互いに助け合わなければならない」という一文が書き加えられおり、messyではこれまで「家族に対して過剰な負担を強いるのではないか」と繰り返し警鐘を鳴らしてきました。

改憲が現実味を帯びてきた今、自民党改憲草案における憲法24条の改正の何が問題なのか、そして改憲を求める人びとはどんな人たちで、なにを考えているのかをしっかりと知る必要があります。そこで自民党による「憲法24条」の改正に懸念を示されてきた文化人類学者でフェミニストの山口智美さんと、貧困や虐待、引きこもりなどに関する書籍を執筆されているライターの杉山春さんに対談していただきました。【全3回】

「家族は、互いに助け合わなければならない」の何が問題? 憲法第24条改正によって社会保障がなくなるかもしれない。/山口智美×杉山春【1】

日本人力士が弱くなったのは戦後憲法のせい?

杉山:改憲を考える保守・右派団体の中には、掲げている「家族はこうあるべき」を自身も実践していない人がいると山口さんはおっしゃっていましたが、彼らはいったい私たちをどこへ連れて行きたいんでしょう? 自分が言っていることと実際の家族の姿がズレているんですよね。だったら現実になったとき、本人も困ると思うんですが。

山口:彼らなりの理想があるんだと思いますよ。「家族は大切にしなければならない」という。ある意味、信仰的なところがあると思います。改憲しようとしている保守・右派の中でも、特に日本会議は様々な宗教団体が関わっていますが、先祖から子孫までの縦の家族の関係性をとても重視しているので。

杉山:宗教の力がそれほど大きい? 日本会議などに関わっている宗教団体は全ての同じ方向を見ているんでしょうか?

山口:日本会議は様々な宗教団体や元軍関係者団体などが集まった、ゆるゆるした連合体です。だから主義主張も異なる部分はたくさんあります。だからこそ誰もが合意できる共通のテーマを掲げてまとまっているんです。それが現段階では、24条ですし、9条、そして緊急事態条項の三つなんだと思います。

杉山:なるほど、面白い。けど怖いですね……。

山口:保守・右派団体は基本的に「日本人は戦後、GHQによって洗脳されたんだ」と思っているようです。その最大のツールが戦後憲法だった、と。

杉山:洗脳ツール。

山口:「こんな憲法があるから日本の伝統的な家族が崩壊した」と右派の雑誌にはよく書いてあります。2015年5月3日に開かれた、日本会議系の「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の集会で、舞の海が「日本人力士が弱くなったのは、憲法前文のせいだ」と言っているんですよね。要するに憲法で洗脳状態にあるから外国人力士に勝てないんだ、と(笑)。

杉山:憲法が弱さの原因なんですね。もっと日本を強くしなくては! という強さを求める気持ちが改憲につながっている。

山口:9条改正は完全にそうですよね。軍隊を持って強い日本になろう、という。そしてそれを支える基本的なユニットが家族。個人じゃない、と。要するに戦前の家族・国家観を復活させたいんでしょう。

杉山:イエ制度ですか?

山口:イエ制度、そしてトップには天皇という国家観ですね。

「理想の家族」から外れた人びとを許さない

杉山:宗教的な価値観を持つ人たちが集まって、互いがなんとか合意できるところから始めるという、不安定な状態で改憲が行われようとしているんだなあ、と実感したのですがそれだけでしょうか?

山口:宗教にかぎらず、保守層は「家族を大切に」というところで同意できるでしょうね。

杉山:もしかしたらそれは保守だけじゃないかもしれませんよね。

山口:そうなんですよ。「家族を大切に」といわれたら、多くの人が「そうだよね」って思うでしょう。私は多様な家族の形態があってよいと思うのですが、保守・右派団体は、サザエさん一家を理想とする、彼らが考えるところの「伝統的な家族像」があって、それから外れていくことは嫌がります。ですから彼らが掲げる理想の家族像から弾かれる人たちは非常に苦しい状況になると思います。

杉山:今だってシングルの親たちは苦しんでいますよね。

山口:ええ、シングルの親たちや高齢層、特に女性なんて大変な貧困状態じゃないですか。もっと大変な事態になると思います。

杉山:でも、理想から外れた存在だから、「あなたが悪い」という自己責任になる。

山口:そう。個人の責任になってしまう。そのくせ、家族が面倒を見なくてはいけない。

杉山:現状をみれば、高齢化した単身の叔父さんの面倒を低収入でかろうじて生活を成り立たせている独身の姪がみるなんてありえないですよね。そして今そういう立場に置かれている人たちは声を上げられない人たちです。「自分が悪いんだ」と思っている。いまだに「家族」から弾かれることへのスティグマが残っていますし。

山口:こんな憲法が作られたらよりスティグマは強化されると思います。だから24条は日本社会全体を変えうる根本的な問題なんです。女性だけの問題じゃない。

杉山:今だって家族内の殺人は少なくないですよね。

山口:日本会議からすれば「家族で殺人が起きているのは、憲法によって家族が崩壊したからだ」ということらしいんですが。そんなわけないということを、それこそ杉山さんのような現場を知っている方たちに発信していただけるととても心強いです。

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