女の体は男のもの? 「自分のための」ヌードへ
――「誰もが知っていて、無意識に使っている言葉」に誠実でいるというのは、誰にでもできることではないと思います。「私の」という言葉で表されるような、身勝手な目線で人を切り取ってしまう行為も、私たちが日常、ある意味では無意識の暴力として行使してしまいがちなものですよね。「自分が」そうあってほしいだけなのに、「みんな」そう思っているんだ、だから当たり前のものとして受け入れられなければならない、みたいな。たとえば「女の体は男のもの」といった言説もそうですよね。
七菜乃:男の人が持っている「女の体は男のもの」みたいな見方って、本能的な部分もあるだろうと思うので、ちょっとはしょうがないことかな、とも思うんですよ。だけど話を聞いていると、その認識を当たり前のものだと思っている女の人が意外と多いんですよね。自分は自分のものであって、男のものでも、親のものでもないはずだし、女の人が裸になるのも、全部が男の人のためっていうことでもない。今世に出ている女性のヌード写真って、男の人のために作られているものが圧倒的に多いじゃないですか。そういうのも、私はおかしいなと思っています。「男のためだけじゃない、自分のためのヌード」がもっとあっていいんじゃないかな。私が撮るヌードは、男の人が欲情するためのものではないけど、それを「いいね」と言ってくれる人もいる。「価値観が変わった」と言ってくれる人もいる。前に、ある女の子からお手紙をもらったことがあるのですが、「今まで自分の女としての体を受け入れられずにいたけど、作品を見て受け入れることができるようになった。自分を解放することができた」というようなことを書いてくれていて、そのときは本当に「活動をしていてよかったな」と思いました。でも逆に、そういうヌードを「ありえないもの」だと思っている人もいたりするわけで、そういう人にも知ってもらいたいな、受け入れろとは言わないけれども、せめてそういうものがあるんだということだけでも分かってほしいな、と思っています。
――女の体を持っているというだけで、男の望む「女の子」であることを強いられることもありますよね。
七菜乃:「女の子」っていったい何なんでしょう? 一般に認識されている「女の子」像って、人が作った「女の子」像だから、あまり好きではないんですよね。みんなが同じようなことを想像できるから、記号として使うことはあるけど、「女の子特有のあれだよね?」みたいな決めつけは、やっぱり嫌だなって思っちゃいます。確かに一言で言ってしまえば簡単だし、「かわいい」とされているものだし、使いやすい言葉ではあるんだとは思うんですけど、やっぱりそれぞれ違った個人がいるわけですし、「女の子」っていってもいろんな女の子がいるわけだし……。でもそれを言ってしまうと、すべての言葉がそうだから、困っちゃいますよね。私は普段の生活でもそんなことばかり考えてしまうので、なかなか生きづらいです。撮影のときでも、「じゃあ自由に動いて」とか言われちゃうと、「『自由』ってなんだろう……」と思っちゃう(笑)。「今その人が考えているであろう『自由』を想像しつつ、自由に動いてると見せかけた、計算ずくの『自由な動き』をしなきゃいけない」ってことじゃないですか。「普通」にして、とか「自然」にしてとか、よく分からない言葉ですよね。人って、本当に「自然」なものは受け入れられないんだと思っているんです。だって、あまりにも生々しいから。私がいつも言うのは、みんな受け入れやすいように「作られた自然」が好きなんだということ。だから、私の撮っている写真も、「自然」なんかではなく、全部「作りこんだ自然」なんです。「自然」なんていうものは、結局のところ存在しないんだということになってしまいますけど。
――自然といえば、「老い」についてはどういうふうに捉えられていますか? とくにアイドルや女優は老いると「劣化」という表現をされたり、一般的にはネガティブなものとして受け入れられていますよね。
七菜乃:アツコバルーでモデルの募集をしたときに、20代から50代まで、本当に幅広い年代の方が来てくれたんです。「撮って」と言うくらいだから、自分に自信があるんだろうというのもあるんですけど、それにしてもみなさん本当にきれいで、「無駄に年をとるということはないんだな」と思いました。
この日本では、女性は若ければ若いほどいい、ということになっていますよね。みんなそういうふうに、「いい」とされているものを「いいんだ」と思うようになってしまっている。きっとその方が楽なんですよね。でも私は、老いていく一瞬一瞬もすべていいものだと思いたいし、タレントの女性のヌードにも、どうしても「最後の手段」みたいなネガティブなイメージが付きまとっているけれど、「それがどうしてダメなのか」ということを問いかけていきたい。反骨精神みたいなものが強い人間なので、一般的に「いい」と決められているもの、「正しい」とされているものに対して、「もしかしたら違うんじゃないかな」と思って、色々なことをやってみるというのを、これからも楽しんでいきたいですね。
■七菜乃さんの写真展「私の女神たち -My Venuses-」は、9月4日まで、神保町画廊にて開催中です。(開廊時間:13時~19時、会期中休廊日:月・火)
(聞き手・構成/餅井アンナ)