はっ!
問屋街には中さじがあるかも知れない。
その昔、「合羽橋に行けば(調理器具なら)何でもあるよ」と聞いたことがあるわ。
〜〜〜ガタンゴトン〜〜〜ガタンゴトン〜〜〜〜ガタンゴトン〜〜〜ガタンゴトン〜〜〜
……というわけでやってきました合羽橋道具街。
計量スプーンセットです。
左は15ccと5ccのセット、右は15cc、5cc、2.5ccのセットです。
やはり10ccの中さじはありません。
店の方に聞いてみると、「計量スプーンセットはずっとこれだと思うけど……10ccでしたらバラ売りのものがありますよ」とのこと。
また、別のある店では「私は昭和43年からこの店にいるけど、セットはこれ(写真とは別メーカー:15cc、5cc、2.5ccのセット)以外見たことないな」とのことでした。
さらに別の店では「うちも10ccが含まれている計量スプーンセットはない」とのことでした。
4本セットもありましたが、30cc、15cc、5cc、2.5ccという組み合わせでした。
さらにさらに別の店です。バラ売り計量スプーン。
ちょっと見えづらいですが左から15cc、10cc、5ccです。
このバラ売りシリーズは最小1/10ccから最大30ccまでありました。
この店にも15cc、5cc、2.5ccのセットはありましたが、ステンレス製ではなく、白くてお洒落なホーロー製と陶器製でした。
あとは10ccを含まない4〜6本のセットです。
……こうなると「大さじ・中さじ・小さじ」では収まりません。
表示がなければ「小さじ1ってどの小さじだ!?」ってなりますね。
レシピ本の注意書きに「この本では小さじ1=5ccとします」と書かれているのも納得です。
「『この本では〜とします』だなんて自分ルール作ってんじゃないよ!」などと思ってしまってごめんなさい。
後日デパートで10ccを含むセットを見つけましたが、昔からの3本ではなく4本セットでした(15cc、10cc、5cc、2.5cc)。
左は15cc(大さじ1)、5cc(小さじ1)、2.5cc(小さじ1/2)、1.25cc(小さじ1/4)の4本セット。
親切なことに「小さじ1/4 1.25」と、ccと小さじの単位が両方表示してあります。
このメーカーにメールを送ってみましたが、記事にできるような確実で詳細な情報は分かりかねるのことでした。
「お役に立てず申し訳ない」と書いてありましたが、メールの往復に付き合っていただきありがたく思いました。
ただ、やはり「弊社でも長年3本セットは、大さじ・小さじ・小さじ1/2でのセット販売で、中さじのお取扱いはございません」とのことでした。
計量スプーン3本セットで中さじ10ccを扱っている(扱っていた)例は今知る限りでは0ってことか……。
調べる前は、「計量スプーン3本セットは、昔は大さじ(15cc)・中さじ(10cc)・小さじ(5cc)だったけども、中さじの需要が少ないためにセットから外されたのでは?」と思っていましたが、調べていくうちになんだか違うような気がしてきました。
今は、「計量スプーン3本セットは最初から大さじ(15cc)、小さじ(5cc)、1/2小さじ(2.5cc)のセットで売られていて、でもスプーンそのものに大・中・小の表示がなく、また、使う人の多くが『小さじ=5ccが日本で標準化されている』とは知らないために、大きい順に大さじ・中さじ・小さじと呼んでいただけなのではないか?」と思うようになりました。
まだ自分の中の仮説です。
……ミニスプーン(1cc)が1/2小さじ(2.5cc)に取って代わられた経緯がどうだったのかも気になりますが、そもそもミニスプーン1ccが加わった時点で「大・中・小」のイメージが生まれます。
中さじ・小さじ論争の始まりはそこに秘密が隠されているような気がします。
しつこいような気もしつつ、昔の人のレシピに「中さじ」って書いてないかしらと思い図書館に寄ってみました。
猪突猛進なもうひとりの明治生まれ・宇野千代のレシピ本『私の作ったお惣菜』(集英社)を開いてみました。
いろいろな自慢の料理が登場し、材料と手順がおおまかに書いてあるですのが、なんと。
分量が書いてありません。
本の終盤に「ここでちょっとお断りしておきたいと思いますのは、私は料理を作るときに、何が何グラム、何が何カップなどと、計りこみはしませんのですけれど……(略)」
(波濤)(波濤)(波濤)(波濤)〜ザッパーン〜(波濤)(波濤)(波濤)(波濤)
いつだったか、あく抜きをしないゴボウの話をエッセイで読んでこの連載の記事(奔放人生の宇野千代に倣う、アクを抜かない「揚げゴボウ入り肉じゃが」)にしたことがありました。
その時は料理レシピ本ではなくエッセイの中に出てくる料理の話だったので、分量が書いてなくても気にならなかったのですが、レシピ本で分量をほとんど書いてないなんて目からウロコです。
さすがにカンに頼るわけにはいかないということで唯一分量が書かれていたのは枝豆豆腐でした。
枝豆200g・だし汁2カップ・葛1カップ。調味料は塩と味の素。調味料の分量説明なし。
枝豆豆腐にかける掛け汁の作り方の説明になると「この掛け汁は、すまし汁よりも、やや、濃い目、と思えば好いでしょう」のみ。
何だか「やろうと思えばできるんじゃありませんか?ちまちまとやっているんじゃありませんよ。ははははは」と、肩をポンポンと叩かれた気持ちになりました。
いやいや。
香川綾が計量スプーンを考案したのは統一された計量器具が必要だと思ったからでしょう?
確かに小さじ1と小さじ1/2では2.5cc分しか違わないけど、作る分量が増えたらその差も増える。
人に伝えるならちゃんと正しい分量を伝える必要があるでしょ。
元々は医者を目指した女子栄養大学創立者・香川綾。本能的に行動する作家の宇野千代。
宇野千代のようなざっくりとした伝え方のほうが自分の味にたどり着くための試行錯誤の楽しみがありますし、ご飯を作る条件が多少変わっても(来客者の数が急に増えるとか)対応できますが、料理に慣れない人や、急ぐ人にとっては香川綾のように数量化した伝え方のほうが安心して作れます。
……随分と長い言い訳をしてしまいました。
間違いは間違い。以後、気をつけます。
今回は酸っぱい一品です。
では参りましょう。「鶏モモ肉レモンマリネ炒め」