シャッター音が気持ちを高揚させていく
――なぜ「撮られたい」んでしょう。ルックスに自身のある方だけが応募してくるわけではないですよね。
花盛 自信がある方もいらっしゃると思いますけど、コンプレックスを克服したい、っていう方もいっぱいいましたよ。大体一般の方だし、撮ったことも、撮られたこともないし、ましてや裸なんて……だけど、「自分を好きになるために撮ってほしい。残したい」って言ってくれる人もいましたね。
――「花盛さんなら、きっと素敵に撮ってくれるんだろうな」っていう期待感を持って応募されたとしても、やはり「はじめまして」の人の前で“脱ぐ”というのが……ハードルが高い気がするんですよね。
花盛 確かに、すっごい悩んで、悩んで、送ってきて下さる方もいっぱいいらっしゃいました。でも、悩まれてるうちに締め切り日が過ぎていたっていう(笑)。「募集します!」っていう瞬間に、すごいスピードで応募してきてくれた方たちって、ずっと「撮られたい」っていう気持ちがあったんだと思うんですよね。「失恋したばかりで、今痩せているから撮ってほしい」っていう方もいらっしゃいました。今の自分を残したい。という思いがあるのだと思います。
――どういう環境で撮影されたんですか?
花盛 撮影はAirbnb(エアビーアンドビー)で部屋を借りて、余計なシチュエーションとか背景などは特になしで。1人1時間の撮影で、1日で撮影しました。
――1日で撮影ですか! 9名だから9時間撮り続けていたわけですね。でもたった1時間で、撮影という状況に慣れていない素人の方を撮るって……花盛さんとしては、自然な感じを撮りたいけど、どうしても緊張感が出てしまうのではありませんか?
花盛 時間もないし、一瞬にして私に心を許してもらわないといけないし、なんせ、即、脱がせないといけないわけですからね。いつも私が携わっているような、女性誌や音楽誌などに掲載するためのポートレート撮影だったら、ヘアメイクの時間があっておしゃべりして、「最初だけ、カーディガンとかバスロープとか羽織ってからやる?」とか出来るけど……「こんにちは~! じゃ……脱ごっか?」ですからね(笑)。 でも、やっぱり緊張していると感じたら、その人に合った感じで、頭を切り替えてもらえるよう努力はしますね。
――例えば?
花盛 場所(背景)を変えたりとか、 “本人が気付いていないけどすごく綺麗な部分”を最初に撮ることからはじめたりする時もあります。「あ、この人はお尻はイヤなのかも」っていうのを感じ取ったら「ここのラインすっごい綺麗やから、ここを撮ろう!」って撮影して、本人に見せると「私、こんな綺麗な部分あったんだ」って発見があって自信がつくから、そうすると、もっと見せようって気持ちが変わっていってくれたりするんですよね。
――花盛さんの洞察力が鋭いんですね。
花盛 友達といる時は全然発揮されないですけどね。1対1の被写体との関係では大事ですよね。「あ、今めっちゃ緊張したな」とか、瞬間の相手の気持ちはちゃんと読み取ってあげたいって思っています。あと、盛り上げも大事。「今日私、こんな下着つけてんで!」って自分の下着を見せて距離感を近づけたり、撮影中も「ほんまヤバイで~、このカラダ~!」って言いながら撮ってましたね。あと、よく思うんですけど、シャッター音の効力なのかもしれない。シャッター音によって、って撮られている人の気持ちが高揚していくような気がします。
――「脱いでみた」のポストカードやポスターを見させていただいて……モデルさんと違って、一般の方達のリアルな美しさに引き込まれますね。すごくリアルなのに、妙なエロさがなくて。
花盛 私自身、男性が好むような“エロ”のヌード写真じゃなくて、同性である女性の目に魅力的にうつるヌード写真が撮りたいんです。そして、化粧で足していく「綺麗」じゃなくて、見てくれている人に向上心を持ってもらえる作品にしたいっていう想いがあるんですよね。年齢を重ねるごとに、変化していく体型に対してもネガティブになりがちですけど、モデルさんたちを見て「あの人になられへん」っていうネガティブな感情じゃなくて、身近な“女性”を見て「今の自分も綺麗や」って、ポジティブな感情になってほしい。
――アイドルの写真集のように、一般の方でもインスタやfacebookでの自撮り投稿で“加工”することが当たり前のようになっていますが、花盛さんは加工や修正に対してどう思いますか?
花盛 う~ん、あまり好きじゃないです。インスタの色味の加工なんかは楽しいから使うけど私自身加工ソフトの使い方がよくわからないくらい、使ったことがない。例えば、撮った方にアザがあっても消さないようにしていて。それも含めてその人の綺麗さだと思っているから。