うつりんの結論
うつりん「精神病院にかかっても『薬漬けにされるし病気は治らない』という都市伝説は、以下の理由からくるのではないかと思ううつ。
・そもそも数が少なくかかりづらく、仮に治療が受けられても有効な治療法がなかった時代の精神病院のイメージが現代に残っている。
・精神科病院自体が差別と蔑視の対象だった。精神科への通院は家族にとってものすごい恥とされ人には隠す行為だった。
・精神病院以外の私宅監置(警察の監督の元、自宅にトイレ付きの小部屋を作って患者を監禁すること)や灌瀧(=かんろう、滝治療のこと)施設は、比較的最近(1950年)まで続いていたため精神病院以外での“治療”が、いまでも社会的に受け入れられている。
・精神病患者も優生保護法などに基づいたひどい差別の対象だったので精神病の人はそのことを隠す。精神病院にかかって完治した人は治療を受けたことを隠すので『病院では薬漬けにされるし病は治らない』という都市伝説がはびこる。
……以上の理由により『精神病院では薬漬けにされるし病気は治らない』という都市伝説と『精神病は隠さなければならない』という風潮が日本に発生し、現代にも根強く残っているのではないかと考えるうつ!」
夢子、病院行くってよ。
うつりん「私宅監置も滝治療も、精神病患者自身が治療の主役じゃないのが引っかかるうつよね~。患者のことなのに、本人の意思より家族の体面や都合のほうが重視されるうつ。たとえば灌瀧の場合、患者が滝に打たれている間、家族は滝壺のそばにいてお経をあげるうつ」
夢子「……重っ! 心配してもらうのはありがたいことなんだけど。ただ、ひねくれた見方かもしれないけど患者当事者としては、『家族も必死でがんばってますアピール』が強すぎると治療に集中できないんだよね……」
うつりん「私宅監置の場合、家族が迷信に基づいてこっそり墓に忍び込んで死体の一部を盗み、骨肉を煎じて薬にして患者に与える場合もあったんうつだって」
夢子「……そんなバイ菌の塊いらんわ! 家族の精神病患者に対する同情心って、なんだか見当違いの方向に暴走しがちだよね……。あのね、今回うつりんの話を聞いて、どんな治療法にするにも患者が自発的に治療に取り組むのがいちばん大事だと思った。患者が自分で治療方針を決めなきゃ、家族や介護してくれる人が、悪意なくても暴走しちゃう。自分でいろいろ知ったうえでやるって決めた治療が、いちばん病気に効くんじゃないかなーって気もするしね!」
うつりん「夢子、成長したうつね……」
夢子「うつりんの話で、お祓いや滝治療は明治時代より前の迷信に基づいてるってわかったし、病気には効かなそうと思うようになった。あと私宅監置みたいに病院にもかからず薬も飲まないんじゃ、永久に完治しないこともわかったし。とりあえず私、病院行くわ。呉秀三先生みたいな医師に出会えればいいな☆ けど、せっかく病院にかかっても家族の体面や世間の常識のいいなりになって、どういう治療をしていきたいか自分は何も考えずにいたら、たとえばのハナシだけど、子宮を取られるみたいなことがいまでも起こらないとは限らないもんね。だから意思を強くもつよ! ありがとうつりん」
うつりん「ほんとううつか、夢子~! うつりん、これからも夢子を見守っていくから安心するうつ!」
夢子「イエ~~ィ☆」
うつりん「うつぅ~~~☆」
【参考文献】
『脳病院をめぐる人びと 帝都・東京の精神病理を探索する』(近藤裕・彩流社)
『精神病院の社会史』(金川英雄/堀みゆき・青弓社)
『青年茂吉』(北杜夫・岩波書店)
『【現代語訳】呉秀三・樫田五郎 精神病者私宅監置の実況』(訳・解説=金川英雄・医学書院)
『精神病者と私宅監置 近代日本精神医療史の基礎的研究』(橋本明・六花出版)
『産む/産まないを悩むとき』(山本百合子/山本勝美・岩波書店)
『現代医療と医事法制』(大野真義/世界思想社)
(大和彩)
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