連載

誰にだって忘れたい過去はある…元・殺し屋に癒される『湯けむりスナイパー』

【この記事のキーワード】
湯けむりスナイパー

DVD『湯けむりスナイパー 特別編』東宝

 『湯けむりスナイパー』は、2009年4月から6月まで、テレビ東京系で放送されたドラマで、原作・ひじかた憂峰、作画・松森正による同名漫画作品が原作です。私が初めてこのドラマを見たのは、仕事でちょっと疲れていた時期でした。私はシリーズのDVD、全4巻(現在は特別編の第5巻も発売されている)を、週に1本ずつ借りては噛みしめるように見ました。『湯けむりスナイパー』を見た記憶は、今思い返しても、荒涼とした日々の、数少ない癒しの思い出です。

 このドラマは、殺し屋だった過去を清算した男(遠藤憲一)が、「リストラされた中年男性・源さん」として秘境の温泉宿「椿屋」で働き、その土地の人々やお客さん達と関わっていく中で、人生のリセットを試みる、というストーリーです。

 当時の私は、「過去をリセットしたい」という源さんの切なる願いにシンパシーを抱いたし、「椿屋」の傍を流れる川から汲んだ水でラーメンを作って食べる源さんと番頭さん(でんでん)のシーンなど見て、まるで自分まで秘境に行って「椿屋」の一員になったような気になれるのが、嬉しかった。

 『湯けむりスナイパー』は、当時の私にとって、つかの間の逃避を楽しむためのドラマだったのです。

 当時、私が、『湯けむりスナイパー』を見続けたのは、素直に癒しを感じることができたからだと思います。

 しかしこの度、このコラムを書くために『湯けむりスナイパー』を見返し、2012年に出た特別編の第5巻も見たのですが、今回は、また違った感慨を抱くようになりました。今の私にとって、『湯けむりスナイパー』は、どうやら「過去を払拭する難しさ」について、考えさせられるドラマであるようです。

ムシが良すぎないか?

 源さんの過去は、オープニング、そして本編の回想で、断片的に語られるのみですが、回想は、以下のようなモノローグに伴われます。

「オレはかつて殺し屋だった。標的は、誰もが殺すに値する人間だったが、もう一度人生をやり直したかった。オレは殺し屋を引退し、一切の過去を清算して秘境の温泉宿で生きる決意をした」

 前回見たときは全く思わなかったのに、今の私は、このモノローグを聞くたびに、ちょっとムシがよすぎるのでは……? という思いがよぎってしまいます。

 消し去りたい過去、暗黒の自分史。誰もが逃れて、自由になりたいと願うそれらの呪縛をリセットして人生を生きなおすなんて……果たして可能なのでしょうか?

源さんの人柄

 などと、冷めた思いを抱きつつも、回を追って明らかになる、源さんの朴訥とした人間性におのずと好感を持ち、応援せずにはいられなくなる点は、前回の視聴のときと、全く同じでした。

 源さん自身、ドラマの中では「果たしてオレの人生は、リセットできたのだろうか、それとも……」と常に悩んでおり、彼は常に、昔の殺し屋としての自分と、現在の「椿屋」の従業員としての自分との間で、揺れ続けているように見えます。

 殺し屋時代のスーツ姿とは対照的に、洗いざらしの髪に「椿屋」の法被をはおった姿からは、「過去を清算するんだ」という決意が、ひしひしと感じられはするのですが、どうしても、元・殺し屋の習性が顔をのぞかせてしまう場面が、多々、描かれます。

 気に食わない客にチップを渡され、軽口を叩かれたことに腹をたて、その客の腕をひねりあげたり、番頭さんに失礼なことを言った客にピストルを突き付けたりします。

 昔の自分に戻りそうになる度、「元・殺し屋の本性は、どうあがいても、拭えないのか。ならば、いつか俺はこの『椿屋』を去らねばならない」と、悲しみにくれる源さんの姿が、痛々しく、いじらしいです。

 源さんは、元・殺し屋と思えないほど、情に厚い面も、見せてくれます。椿屋に泥棒に入ったカップルをひっ捕らえ、袋叩きにするのかと思いきや、「今月分のオレの給料だ。これ持って、どっか行ってくれ」と釈放したり、50年間思い続けた年上の元教師にプロポーズをする50代男性客(大杉漣)を見て、一人、涙を流したりします。

 そして、謙虚でもあります。初詣に連れて行かれた際、「俺はかつて、殺し屋だった。標的は、誰もが殺すに値した人間だったが、他人の命を勝手に奪ってきたことには違いない。そんな俺が神や仏に何かを祈る資格などあるわけはないのだ」と思う、源さん。

 こんな源さんを、誰が応援せずに、いられましょうか。

1 2

大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』

[PR]
[PR]

messy新着記事一覧へ

湯けむりスナイパーDVD-BOX(5枚組)