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6割の母子世帯が受け取ったことのない養育費 「強制徴収」以上に重要な「誰が子供を育てるのか」という視点

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Photo by Tom Reynolds from Flickr

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9月上旬、法務省が養育費の不払い対策のための法改正を検討するという報道がありました。養育費の不払いはひとり親世帯の貧困の一因であるとの考えから、養育費を不払いしている債務者の財産を裁判所が差し押さえる「強制執行」について定めた民事執行法を改正する方向で検討中とのことです。あわせて、離婚などで離ればなれになった親と「子の引き渡し」の強制執行についても、明文規定が無い現在の民事執行法に新たな規定をつくるための議論を始めるようです。

これに合わせるように、法務省では養育費と面会交流の取り決め方やその具体的方法について説明したパンフレットを作成し、10月1日から市区町村の窓口において、離婚届用紙を取りに来た人に同時に交付しています。パンフレットは、養育費の金額や支払い期間などを具体的に決めて合意書を作成するように提案する内容となっています。

養育費ちゃんと決めよう 法務省、離婚届用紙交付時にパンフ(日経新聞)

日本では、離婚後に父親が子どもの養育費を踏み倒し、母子世帯が泣き寝入りをするとケースが非常に多いことが問題になっています。厚生労働省の「平成23年度全国母子世帯等調査」によれば、約6割の離婚母子世帯は、父親から養育費を一度も受け取ったことがなく、離婚直後は養育費を受け取っていたものの、途中で支払いが途絶えるケースも非常に多いことが明らかになっています。実際に養育費を受け取っている離婚母子世帯は全体の2割程度にとどまっています。

離婚は経済状況の悪い夫婦間で生じやすいものの、すべての夫が養育費を払えないほどの経済状況というわけではありません。労働政策研究・研修機構の「子育て世帯全国調査2012」に基づいた周燕飛氏の再集計によると、離婚母子世帯の養育費の受け取り割合は、離別父親の年収が200万円未満の層では4.7%、年収500万円以上の層ですら25%にすぎません。

経済力が十分あるにもかかわらず7割近くの離婚父親が養育費を踏み倒しているのは彼らの再婚が主な理由と考えられます。同調査によれば、前妻との間に子どもがいる離別父親の再婚率は約6割に達しており、離別した妻子よりも新しい家族を優先している離別父親の状況がうかがえます。

母子世帯の貧困が問題となっているなかで、政府が養育費不払いについて具体的な対策を行うのは重要な動きといえます。一方で、そもそも母子世帯に必要なのは「離別父親から養育費を徴収する」ことそのものではなく、「なんらかの形で生活費を確保すること」であるはずです。養育費強制徴収や財産差し止めにかかる行政コスト、離別父親の再婚した家族の生活の安定なども考慮すれば、政府がどこまで離婚した夫婦間の問題に立ち入るべきなのか、離婚母子世帯の貧困対策は元夫からの養育費でまかなうべきなのか、慎重な議論が必要です。

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古谷有希子

ジョージメイソン大学社会学研究科 博士課程。東京大学社会科学研究所 客員研究員。大学院修了後、ビジネスコーチとして日本でマネジメントコンサルティングに従事したのち、渡米。公共政策大学院、シンクタンクでのインターンなどを経て、現在は日本・アメリカで高校生・若者の就職問題の研究に従事する傍ら、NPOへのアドバイザリーも行う。社会政策、教育政策、教育のグローバリゼーションを専門とする。

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