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「ごんぎつね」の誤解に耐えられず、「女子高生がマクドナルドで~」の嘘も許せない/加藤千恵×枡野浩一【2】

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左『愛のことはもう仕方ない』/右『ラジオラジオラジオ!』

左『愛のことはもう仕方ない』/右『ラジオラジオラジオ!』

 小説を書く際の「嘘」について熱く語る加藤さんと枡野さん。枡野さんは嘘を徹底的に嫌い、加藤さんは「誤解」がとても苦手だという。しかし枡野さんのあまりの「嘘嫌い」に加藤さんが思わずツッコミ、それはふたりの生き様の話に重なる……。

【1】こうするのが世界にとって美しいみたいな覚悟

「枡野さんは恥ずかしくないんですよね、自分のこと書くの」(加藤)

枡野 加藤千恵さんの『ラジオラジオラジオ!』【注】は、高校生がラジオパーソナリティーになる話だけど、実際にそういうのやってたじゃない?

加藤 地元が北海道の旭川というところなので。そうなんですよ、(高校生のときに)旭川の「FMりべーる」という局で。

枡野 すごいのはさ、北海道というのが(小説の中に)一言も出てこないのね。

加藤 そうなんですよ、出てないですね。

枡野 なんでなの? そこまで北海道を捨てたいの?

会場 (爆笑)

加藤 やっ、私、北海道好きだし!(笑) ただ「旭川」って書いたら、「違うじゃん!」ってなったら困るなって思ったんですよ。

枡野 あ、そうだ、FMりべーるじゃん、ほんとは。

加藤 そうそう。作中では“FMフルス”って名前で。本当に今も実際にあるFMりべーるはフランス語で「川」っていう意味なんですね。で、“FMフルス”はドイツ語で「川」なんです。そうやってちょっと変えたんですけど。

枡野 そんな繊細な定義を。

加藤 フフフ。いや、でもなんか、これ、自伝的に思われたりしてるみたいなんですけど、全くそんなことなくって。私、長期記憶ができないんですよ。記憶力がすごく悪くって。

枡野 僕もだけど。

加藤 だから、なんていうんだろう、そのままを書いてくださいって言われても書けないんですよね。

枡野 一緒に(ラジオを)やってた人、なんていうんだっけ?

加藤 ひらまいです。

枡野 ひらまいさんと(小説の登場人物は)全く違うの?

加藤 違いますね。

枡野 こんなエピソードはなかったの?

加藤 ないです。

枡野 たとえばさぁ、友達のことを(ラジオで)喋っちゃって怒られたことはないの?

加藤 ないですね。

枡野 すごいね。なにもかもがフィクションなの?

加藤 や、そんなことない……。あの「ソングパーク」っていうカラオケ屋さんが出てくるんですけど、それは本当にありました。旭川に。

枡野 そこで同級生がセックスしちゃった噂があったの?

加藤 いや、同級生はセックスしてないんじゃないかなぁ。

枡野 ほんとう? たとえばさぁ、ラジオ局の人にさ、ちょっとお説教くらうところがあるじゃない?

加藤 はいはい。

枡野 ああいうのはあったの?

加藤 いえ、あれはいまの私の気持ちで。ごめんなさい、ちょっと、私の本の話になっちゃってますけど。この主人公の子が地方FMで番組をやってるんですけど、この子、結構、ラジオを見下してるんですね。

枡野 そう。テレビのほうがいいと思ってるんだよね。

加藤 ラジオをテレビの代用品みたいに思っていて。私、それがすごく嫌で。

枡野 あ、そうなの!? すごいね。(作品の主人公が)自分と違うんだ。

加藤 そうなんです。私、中学生の頃からラジオ好きで。『爆笑問題カーボーイ』【注】とかも超聴いてて。大好きだから……。

枡野 つまり、この本の主人公は……

加藤 この本の主人公はまずラジオを聴かないんですよ! 全然聴かない。ラジオをやってるのに。

枡野 テレビが金だとしたら、ラジオは銀だと思ってる。

加藤 そう。金メダル銀メダルでいえば。主人公がラジオを馬鹿にしてイヤだったから、それでFM局のラジオのおじさんが出てくるんですけど、その人に私の言いたいことを言わせました。

枡野 なんて、かとちえは大人なの!

会場 (笑)

枡野 加藤千恵さんはねえ、初めての頃からすごく大人びてたところがあるの。短歌もほんとの女子高生が書いたにしては……、あの、女子高生が本当に書いたら背伸びしたりとかするの。でも、まるで等身大の女子高生みたいに書くんだよ。すごい才能だと思ったのね、それ。そのあと見ても、そんな人いないもん。

加藤 でも今、すごく上手な子多いですよ、多くないですか、上手な子?

枡野 けど、でも、違うよ。かとちえの短歌って、なんでこれで成立してるんだろうって思うくらいにシンプルなのね、言葉が。

加藤 はい。

枡野 でも圧倒的に強くて。当時はわかんなかったんだけど、今思うと、やっぱすごいよ。文才が。あと、自分への距離感みたいなものがすごいと思うんだよねえ。

加藤 なんか私は、その、自分の話を覚えてないのもそうだし、恥ずかしいじゃないですか、自分のことを書くのって。

枡野 そうなの?

加藤 枡野さんは恥ずかしくないんですよね。自分のこと書くの楽しいですか?

枡野 今日の呼び込みはちょっと恥ずかしかったけど(笑)。

加藤 アハハハ。

枡野 自分のことで、「枡野、こう書いてるけど、ほんとはこうじゃん」と言われるほうが恥ずかしいかな。

加藤 ほぉ~。実際と違う、カッコつけてるってことですか? 文章でカッコつけてるじゃんってことですか?

枡野 文章のほうが素敵に見えることが恥ずかしかったり。

加藤 ふ~~ん……。

枡野 あの、うん、トークなんかで僕のことを誰かが喋ってくれて、素敵なふうにしゃべられちゃうと「違うのにぃ~」って訂正したくなっちゃう。

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枡野浩一

歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌代表作が高校の国語教科書(明治書院)に掲載中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。二村ヒトシさんとのニコニコ動画番組『男らしくナイト』(第1回は9/24夜)、中村うさぎさんとのトーク企画『ゆさぶりおしゃべり』(第1回は10/7夜)など、最新情報はツイッター【@toiimasunomo 】で。

@toiimasunomo

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