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恋愛の美味しいとこだけ食べる宣言の『逃げ恥』、恋愛や結婚を無条件に良いものとしない価値観/第五話

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『逃げるは恥だが役に立つ』公式サイトより

『逃げるは恥だが役に立つ』公式サイトより

 今期ドラマの中で唯一、視聴率が右肩上がりを続ける『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)。初回10.2%から第二話12.1%、第三話12.5%、第四話13.0%と推移し、今回は13.3%と4週連続の上昇となりました。最初は「ガッキーかわいい」がメインの感想でしたが、ガッキーのかわいさだけで安定人気を獲得したわけではもちろんありません。細かい演出と脚本の賜物だといえるでしょう。

 さて、先週、みくり(新垣結衣)から「平匡さん、私の恋人になってもらえませんか?」と打診を受けて大混乱の平匡さん(星野源)でしたが、「契約(つまり偽装)結婚であることは周囲にバレたくない。恋人をよそで作るようなリスキーな行為は避けたい。平匡さんと交際するのが最適」というみくりの論拠には納得したようで、しぶしぶ了承します。

 ややこしいんですけど、みくりは「平匡さんが好きだから恋人関係になりたい」とは言ってないんですよね。だからこそ平匡さんは戸惑っちゃってるわけで。でもお互いに、本気の恋愛関係に進展するとケンカしたりぎくしゃくすることもあるとイメージしているから、それはそれで避けたいと。うーん、そりゃできれば避けたいよね……ドラマチックな人生よりも平穏な暮らしを望むふたりですから。

 このドラマの特徴は「恋愛=幸せ」とか「結婚=大好きな運命の人と」みたいな、これまでテレビドラマが築いて広めてきたセオリーを疑ってかかる姿勢ですよね。それが視聴者に支持されるゆえんでもあると思います。

 この作品では恋愛欲求や性欲が今のところ直接的には描かれていないように思います。恋愛欲求の薄い男女を取り上げているところが新鮮なわけですよ。前の月9の桐谷美玲なんて「この夏こそは素敵なキスがしたい!」ってずーっと言ってたわけで、それでなくともドラマのヒロインは「恋がしたい!」と熱望しているのがお約束。結婚を主題にしたドラマでありながら、恋愛や結婚を無条件に良いもの、すべきものとする前提に立たないところが『逃げ恥』の斬新さではないでしょうか。

 そしてこのふたり、お互いに、自分の気持ちじゃなくて「相手はどう考えてるか?」ばっかり気にしています。主要登場人物の奥深くの気持ちをあえて視聴者に見せない演出、なのかもしれません。だから続きが気になっちゃうんだな~きっとな~。

 さて、みくりは自称「小賢しい女」でありますが、媚びませんし思わせぶりな態度もとらないキャラクターです。とりあえず恋人らしさ・ホンモノの夫婦らしさを(体外的にアピールすべく)醸し出すために、欧米ならただの挨拶でするほどライトなスキンシップ“ハグ”を提案します。「癒しあいの関係。ありますよね、あー疲れたーハグされたいなーってとき」と言うみくりに、平匡さんは「そんなに癒されたいならこんな形式的なものではなくて本当の恋人をつくればいい」と切り返すのですが、みくり「私は恋人の美味しいところだけを欲しいんです!」と断言。平匡さんに引かれて心を閉ざされることを恐れてはいる(仕事がやりづらくなるから)のに、こういうことはハッキリ言っちゃうんですね。なんかすげえ。

 誰かにハグされたいなんて、35年間生きてきて一度も考えたことのなかったプロの独身(というか童貞)平匡さんは、みくりの突拍子もない提案と初めてのハグ実施に懊悩します。子供のころ母親に抱っこされた記憶はあるが、肉親以外となると誰とも肉体的スキンシップをとったことはない。しかもみくりはそこそこカワイくて有能で思慮深い(と平匡さんは思っている)女性、少なくとも平匡さんはみくりに嫌悪感は抱いていません。みくりから「一番好きです」といわれたことを思い出して悶絶する程度には彼女のことを意識してもいます。でもその「好きです」発言も、「あくまで雇用主として好き」「絶対評価ではなく相対評価」「僕は単なる雇用主で抱き枕……」「彼女の前に都合のいい男がいたというだけのことだ」等と思い込もうとするんですね。だって自分から超好きになっちゃってフラれたら怖いし、恋愛感情に振り回されて疲れるのもイヤだし。彼女は僕のことなんか好きじゃない、好きになるはずがないと言い聞かせる平匡さんの苦悩を知ってか知らずか、みくりは秘かに彼のことを「恋愛における自尊感情が低いあまりに、深いかかわりから逃げようとする人」と分析していますが、その通りですね。ってか、もう苦悩しちゃってる時点で振り回されてんじゃん。恋が走り出したら君が止まらない~ってパイセン福山が歌ってましたよ。

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