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ナルシシズムであってもなくても、エゴサーチは気持ち悪い/中村うさぎ×二村ヒトシ×枡野浩一【5】

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心から愛を信じていたなんて

心から愛を信じていたなんて

世の中の男はみんなアナルを開発し、ヨガればいい――と言い放つ二村さんに対し、ゲイ男性とパートナーシップを結ぶうさぎさんは深くは突っ込みませんが、新宿2丁目に十数年通い続け、「ゲイ男性専門出会い系サイト」にも登録した枡野さんはしかし「アナルは嫌だ」と真っ向反論。多様な性と自意識と美意識をめぐる第5回です。

【1】「面倒な女」に対してだけインポになる現象
【2】解釈の違いで生まれる「嘘」と自覚的な「嘘つき」は違う
【3】「女は身体を売ることで傷つき苦しみ罪を背負う」と思い込みたい世間
【4】「EXILE的な男性」に怯え続ける男たち

「私はエゴサーチは気持ち悪いと思うよ!」(中村)

二村 男女の間や夫婦関係における喜怒哀楽の表現って、本当か嘘かで言ったら、すごくシビアな、すごくストイックな「本当」ではないわけでさ。相手と関係を持つための嘘というか……。

枡野 演技が入ってるということですね。でもそれは良かれと思って、相手との関係性を良くしようと思ってやってる。

二村 全員がそうだというわけじゃないんだけど。枡野さんの話でいうとね、「ナルシシズム」と密接な関係があると思っていて。枡野さんってナルシストではないと、僕は思うんです。それは僕が、自分はナルシストだという自覚があって、その僕の目線から見ると枡野さんは全然ナルシストじゃない。枡野さんの本だけ読んで「この人、キモい!」と忌避する人って、枡野さんをナルシストだと思ってるんじゃないかという感じがするのね。それでさ、枡野さんはよくエゴサーチをするよね。エゴサーチって普通はナルシストがすることだと思うんだけど、枡野さんは「自分がどう思われてるかな?」っていう理由でエゴサーチしてるわけじゃなくてね。自分しかいない状態で、自分で喜んだり落ち込んだりするためにエゴサーチしてるわけでもない。普通、ナルシストがやるエゴサーチってそうなのに。枡野さんのエゴサーチは、自分をけなす人と関係を結ぼうとしている気がする……。

枡野 そうそうそう。

二村 普通はエゴサーチする人間は、そうはしないんだよ。自分について他人が何か言ってるのが嬉しかったり悲しかったり……つまり、自分の感情を揺らすためにエゴサーチをしている。だけど枡野さんは、枡野さんをけなしたり褒めたりしてる人に……あ、枡野さんって、自分を褒めてる人にはあまり興味ないんだよね。「僕を褒めてばかりなので眠くなりました」って書いてて、爆笑したことがあるんだけど(笑)。

会場 (笑)

二村 それで枡野さんは、自分をけなす人、僕の言い方でいえば「自分の心の穴に反応している人」、そんな人に興味があって、そこに突っ込んでいきたいんじゃないかな。だから全然ナルシシズムからエゴサーチしてるんじゃなくて。そのことがわかると、実際の枡野さんは、全然気持ち悪い人ではない。だけど、ある読み方・ある角度から枡野さんの本を読むと、それはさっきのAVにおける本番セックスと弁護士・人権派の方々の反応と同じで、「こういうエゴサーチの仕方をする人間はナルシストに違いない」ってなってしまう。もしかしたら、そう解釈してしまう人こそがナルシストかもしれない。それは言わば、自分の気持ち悪いところを枡野さんに見出してしまうということ。だから「こんなふうに枡野さんに粘着されたらどうしよう……」と恐怖を抱いてしまうのかも。

中村 私はエゴサーチは気持ち悪いと思うよ!

二村 どんな動機であっても? ナルシシズムからでも、枡野さんみたいであっても?

中村 うん。どんなでも気持ち悪い。

枡野 率直なご意見ですね……。でももし僕が今死んだら、「枡野浩一に絡まれた!」って人が何百人も出てくると思うの。

二村 まぁ、そりゃそうだ。

枡野 だって毎日エゴサーチしてるから。(Twitterで)物凄い数の人に❤つけてるしさ。

二村 「気持ち悪さ生産装置」みたいな(笑)。

枡野 いまだに「昔、枡野にネットで絡まれた」みたいな人を見るけど、僕もう忘れてるもん。

二村 枡野さんってやってぱり、感情を揺らすのが好きっていうかさ。小説を書いたり、短歌を詠んだりね。枡野さんは「短歌は伝わらなきゃダメ」という信念があるじゃないですか。枡野さんの小説が上手いかどうかは知らないし、売れる小説を書く技術があるかどうかわはわからないけど、本当に日本語の使い方が上手いし、言葉に対してものすごく厳格だよね。カギカッコの使い方とか句読点の打ち方とか表現とかさ。ああ、歌人ってこうやって長い文章を書くんだなって感心して、でもこりゃ疲れるだろうなって。それの象徴がパソコンのキーボードの「め」が壊れたことだと思うよ。

枡野 あれって不思議だったんですよねえ。

二村 いや、あれは枡野さんがいかに日本語をちゃんと書いてるかってことの象徴、それが現象として起きてる。

中村 なんで「め」なの?

二村 や、なんで「め」なのかは僕にもわからないけど……

枡野 でも「め」なんですよ。おせんべいのかすでも挟まったかと思うけど、実際はデジタル的な不具合で……。二村 しかもそれをパソコンに詳しい人がいじったら、すぐなおったんだよね?

枡野 なおしてくれたんだけど。だからそれは全部本当のことなんだけど、それを文章でメタファー(暗喩)として書いたりすると……

二村 いやらしくなる。それこそ嘘になってしまう。だから枡野さんはそのままの事実しか書いてないんだけど、僕はそこに「象徴」を見たんです。つまり枡野さんは自分の感情には全然興味がなくて、「人を揺らしたい!」って人なんですよ。だから、そりゃ芸人やるよなー、って。

枡野 なるほど。そうかも。

「3Pやった翌朝、世界が輝いてみえた」(枡野)

二村 枡野さん、人を笑わせるの好きじゃない?

枡野 笑われるのも好きですよ。僕は自分のダメなことを笑ってもらえることが、他の人の救いになると思っていて。それで演劇に出るようになって、僕はコメディリリーフで、僕がひとこと言うと大爆笑みたいな役柄だったんです、いつもいつも。

二村 多人数が出てるお芝居だと、そこまでにちゃんと他の役者さんが、料理でいうと下ごしらえはしとく、フライパンは火にかけて油はひいとく、みたいな準備があった上でね。

枡野 もちろんあるし、(演劇の役者は)みんな上手いから、僕だけ変な人として異物として入るから、まぁウケるんですよ。それで芸人になったら爆笑の中でいつも生きていけるのかなと思って始めてみたら……。

中村 そうでもなかった?

枡野 また離婚みたいなことになっちゃった。

会場 (笑)

枡野 でもそれ(芸人生活)はすっきりしたの。この前、うさぎさんとのイベントに(芸人トリオの)元相方たちに出てもらったのね。相方たちと僕が3人で並んだのは本当に久しぶりだったんだけど、もう皮膚感覚でいっぺんに「うわっ!」って思い出して。3人でステージに立ってたときのことを全部思い出したの。ステージに出るときね、毎回僕が(芸人トリオの)先輩にメガネ拭きを渡すの。使い捨ての。それでメガネを拭いて、握手して、「どうもー!」って出ていくの。そういうことを全部皮膚で思い出して。さらに、もう(芸人を)やっていけなくなったときの気持ちまで思い出したの。ああ、もう僕は芸人やっていけなくなったんだなって。楽しかったんだよ、(そのときのイベントでの)トークは。でも凄く腑に落ちて、芸人やってけなくなってたんだと思ったときに、未練が凄くあったんだけど芸人活動に、でも「あ~やっぱ無理無理無理、無理だった!」って思えたとき、とってもすっきりしたの。あ、ちなみ元相方たちの現コンビ名は『すっきりソング』[注]。僕が抜けてすっきりしたって意味らしい。

二村 ぐはははは!

枡野 でも本当に今、彼らは面白いネタやってるし、売れてほしいと思ってるんだけど。うさぎさんと一緒にやってるイベントに彼らが出てくれたこと、うさぎさんも出るのをいいとおっしゃってくださったことも込みで本当によかったと思っていて。だから、結婚をしていた人とも一瞬会っただけで、「あ~もう結婚生活無理無理、無理だった」と思えたりとか、(離婚後10数年会えていない)子どもに会っただけで、「あ~、毎月会うのなんて無理無理めんどくさい」と思うかもしれない……。そういうことも連想して、とても気が済んだの。かなりスッキリした。それまで僕はなにか強いられてると思って生きてきたんだけど、そうでもないなって。かなり好き勝手生きてきたし、面白いこともいっぱいあったし。どうしようもないことでこうなっちゃったんだから、もうしょうがないなって。“愛のことはもう仕方ない”って気持ちになれたのは、本を書いたことも含めて……あったんです。

中村 なにを強いられてたの?

枡野 だから、僕の意志に反して、勝手に子どもに会えなくされたとか。

中村 ああ、そのことね。

枡野 僕は会いたかったのに、むこうが会わせたくないっていう気持ちのほうが強かったという、被害者意識でいたけど、でもそうでもないなぁ……とか。あと3人でやってた芸人活動も、もちろん僕は僕で苦しんでたんだけど、相方たちだってすごく考えて譲ってくれたのにうまくいかなかった、最後は。だから誰も悪くないなぁと思えて。離婚のときもそう思えばよかったんですよ。彼女も悪くなくて僕も悪くないって思えればどんなにスムーズに離婚できたかしれないんだけど、本当に「自分は悪くないのに!」って思ってたから。

二村 被害者意識がなくなって、逆に加害者意識や罪悪感が芽生えたりはないんだ?

枡野 それは結構あるけど、でも「お互い様じゃない?」って気持ち。でもわかんない、むこうはお互い様とは思ってないかもしれないけどね。う~ん、でも繰り返すんだなぁ。芸人活動も無意識のうちに結婚生活を模倣してたし。

二村 だからその感情に、被害者意識なり加害者意識なりにケリをつけるために、こういう本を書く仕事をやってる……

枡野 それこそEXILEへの憧れも入ってたかも、芸人活動には。

二村 男たちの中での活動。

枡野 そう。男たちの中へ入って、パートナーを作って、コンビでやるみたいな。3Pするみたいに3人でやってみたのに、結局僕は見てただけみたいな。

中村 実際にやった3Pのときもそうだったの?

枡野 僕はさっさと気が済んで、あとの2人がずっと朝までやってたって感じ。でもそのときの朝はすっごい幸せで、世界が輝いて見えたのね。

中村 途中で抜けたのに?

枡野 うん! 「しあわせだ――!」って。

二村 枡野さん、ハプバー(ハプニングバー)には行かないの?

枡野 ハプバーって、「さぁやって」って感じだから……

二村 圧倒されちゃうんだ。押し付けられるのは嫌なんだよね。

枡野 そう……。

二村 普通に考えたらメンバーが決まってる3Pでホテルに行くほうがよっぽど圧迫感あると思うけど……。まぁ、ハプバーは不特定多数とやるというか、お祭りみたいなものだもんね。盛り上がっちゃうと。

枡野 ほんとはなにかの流れでなっちゃうものらしいけどね、3Pはね。

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枡野浩一

歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌代表作が高校の国語教科書(明治書院)に掲載中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。二村ヒトシさんとのニコニコ動画番組『男らしくナイト』(第1回は9/24夜)、中村うさぎさんとのトーク企画『ゆさぶりおしゃべり』(第1回は10/7夜)など、最新情報はツイッター【@toiimasunomo 】で。

@toiimasunomo

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