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「夜は星を見てポエムを書くんでしょ?」メルヘンおじさんに絶望した心を癒やす『2クール』

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『2クール』webサイトより

 前回、もたいまさこさん・小林聡美さん主演の『やっぱり猫が好き』がいかに素晴らしいかについて、書かせていただきました。スペシャル版がちょくちょく放送されているとはいえ、『やっぱり猫が好き』のファンならば、「シリーズで、また、会いたい!恩田姉妹(もたいさんと小林さん)に!」という熱い想いを抑えきれないのではないでしょうか。

 現在DVD化されている『2クール』は、そんな『やっぱり猫が好き』ロスに苦しむ方にぴったりのテレビ番組であり、同時に、「別に『やっぱりロス』に苦しんでなんかいないわ」という方にも、ぜひ見ていただきたい番組であり、さらに、男性優位社会に少しお疲れ気味の方には、特にぜひ、見ていただきたい番組です。

『2クール』は2008年に日本テレビ系で放送され、小林聡美さん・もたいまさこさんのお二人が、毎回違うことに挑戦するのを追ったドキュメント風の回と、毎回違う脚本家や演出家によるドラマを演じる回、2種類が楽しめる番組です。

 オープニングも、ハンバートハンバートの曲にのって二人が踊るエンディングも、本編も、ヴィジュアルがものすごく凝っていて、タイトルどおりすごくおしゃれな、クールすぎる番組なのです。

 エンディングでの小林さん・もたいさんのお二人は黒いマキシ丈のプリーツスカートにデザイン性の高い黒いビスチェという衣装をお召しになっていて、すごくおしゃれです。二人の衣装はお揃いのようで微妙に違っているところや、細部の遊びにあふれたディテールなどがとてもかわいくて、真似したくなります。

 ドキュメント風の回での二人は、着ぐるみを着て高級ホテルに滞在したり、砂浜(水上ではない)でボートを漕いだり、神社にお参りしたり、遊覧船で話したり、美術作品の制作を手伝ったり、とシュールとほのぼのが融合した企画に挑戦されています。

 これら、ドキュメント風の回(ほぼ毎回企画・構成は霞澤花子さん)では、小林さんともたいさんの「素」を撮っているように見せかけておいて映像や衣装が物凄く凝っていて、じつはすごく作り込んであります。ぼーっと見ているだけでも楽しめます。

 ドラマの回は、ビジュアルもさることながら、女性視点での脚本や演出に、見ていて胸がすく思いがします。

 第7話『つくし図書館』は荻上直子監督・脚本で、利用者より司書のほうが多い図書館でのお話し。鈴木さん(小林聡美)と元木さん(もたいまさこ)、それに青木くん(吉岡秀隆)、佐々木さん(光石研)が司書を演じます。

 毎日訪れていた「横山さん」という利用者が亡くなったと聞き、図書館に入ってきたカナブンを見て、「横山さんがカナブンになってお別れを言いにきてくれたんだ」と感激する元木・青木・佐々木の3人と、「虫退治は私の仕事ですから」と言ってカナブンを問答無用で退治しようとする鈴木さんとのやりとりを描いています。

 「蝶や蜘蛛ならまだしも、カナブンに輪廻転生する人がいるはずがない」という鈴木さんに「カナブンが蝶や蜘蛛より劣っているというんですか?・・・・・・鈴木さんは、差別主義者だ……!」と青木くんが言い放つやりとりには、何度見ても吹き出してしまいます。カナブンの処遇を巡ってこんなほのぼのとした会話が交わされる職場、現実には絶対存在しない。けれど、小林聡美さんと、もたいまさこさん始めとしたキャストが醸し出すリアリティによって、「この人たち、実在しそうだから、どこかでこんな会話がリアルに交わされてるのかも」と一瞬思えるところが、私は好きです。

 なぜなら、それは魔法にかかった、ということだと思うから。私は猜疑心が強いので、創作物を見て「実在しそう」とはなかなか思えない質ですが、それは魔法にかかれないということで、不幸なことだと思っています。だから自分を魔法にかけてくれる作品には、好き・面白いという気持ちを通りこして感謝の念すら湧いてきます。

 第10話の『2008年宇宙の旅』は『2001年宇宙の旅』のパロディになっています。コンピュータのハルさんを搭載した宇宙船に乗った船長(小林聡美)、給食係の金田さん(もたいまさこ)、乗組員・佐藤(市川実日子)、そして、うざい客・村山くん(岡田義徳)の宇宙旅行の様子が描かれます。本家『2001年宇宙の旅』と決定的に違うのは、『2008年宇宙の旅』の宇宙船は、女性で運営された組織である点です。

 「ハンドルをちょこちょこっと左気味にしてみたらさ、いい具合にシャーっと木星の脇を通って行ったの」と言う船長。「ちょこちょこっと左気味ってどういう感じですか?」と佐藤に尋ねられ、「やってみる?いーよいーよ、やってみな」と、運転席を譲ります。

 これって、男性船長なら、絶対やらないことだと思う。ハンドルは権力、ひいては、男根の象徴だから、男性がそれを手放すって、ありえない。どっちの船に乗りたいかには、個人差があると思いますが、私は絶対女性船長のいる船のほうがいいです。些細なことでも権力争いが勃発する組織にいるのは、疲れるので。

 木星を見逃した村山は、3億出すから木星まで引き返せとゴネるのですが、船長は「覆水盆に返らず!It is no use crying over spilt milk!」と一喝し、取り合いません。このようにお金を前にしても信念がブレない人も、女の人のほうが多いと思う。

 さらに、村山が「船長さんは、なんで宇宙船の操縦士になったんですか?かぐや姫に憧れた、とか?」と絡んでくる村山に対し、女性3人は大爆笑します。「向井さんには憧れても、かぐや姫には憧れませんから、いくらなんでも!」と失笑します。

 こういう、「悪気はないとはいえ、うざい」質問をされることって、男性優位の組織にいる女性なら、誰でも経験したこと、あるんじゃないでしょうか。

 私は『2クール』のこのドラマを見て、過去の採用面接で60代とおぼしき男性にされた、とんちんかんな質問を思い出しました。私の経歴をみてそのおじさんが発した質問とは、
「歯グキさんは、夜、星なんかを見て、詩を書いたりするんでしょ?」というものでした。私は笑いをこらえるのに必死になりながらも、女性だからというだけで、そんなメルヘンな先入観を口に出して憚らない、そのおじさんのリテラシー不足に、深く絶望したのです。

 ああ、小林船長の船の乗組員ように、その場で大爆笑しながら、
「詩なんて生まれてこのかた書いたこともないし、夜は星なんて見ないで寝てますから、さすがに!げらげら~!」とその場で笑い飛ばせていれば、私もここまで苛立たずにすんだだろうに・・・・・・。

 男性が中心である組織では絶対見られない様子があまりに爽快に演じられているので、男性の脚本だったらびっくりしちゃうなと思っていたら、案の定、脚本は荻上直子さんで、監督は松本佳奈さんでした。

 『2クール』は『やっぱり猫が好き』ファンの期待に応えつつ、その期待以上のものを見せてくれる作品です。おしゃれでシュールな世界を堪能できるのみならず、男性視点と女性視点の違いについても、考えるきっかけになるかもしれません。

■歯グキ露出狂/ テレビを持っていた頃も、観るのは朝の天気予報くらい、ということから推察されるように、あまりテレビとは良好な関係を築けていなかったが、地デジ化以降、それすらも放棄。テレビを所有しないまま、2年が過ぎた。2013年8月、仕事の為ようやくテレビを導入した。

大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』

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