牛乳業界のど真ん中である〈Jミルク〉に聞く、牛乳有害説の歴史やその周辺事情。後編では〈子ども〉に対する牛乳の影響などについて、うかがっていきましょう。
▼前篇:「牛乳は有害、学校給食からなくせ!」と叫ぶアンチミルク派が抱える矛盾
ーー特に牛乳は、子どもの栄養として適切かどうかと不安を覚える親御さんも多いようです。
Jミルク:子どもの栄養の歴史としては、牛乳が登場した時代(1800年代前半)は経済がすごく発展し、女性労働が厳しくなっていたのがきっかけでしょう。労働が厳しくなると、貧しい地域では母乳が出なくなったり、母乳が出たとしても外に働きに出ていることから授乳ができなかったりして、代替としての牛乳が注目されました。牛乳の登場により、富裕層では体型維持という目的のために、母乳のかわりに牛乳を飲ませたりもしていたようですが。そういうふうに牛乳がいろいろな階層のさまざまな立場で母乳の代替として使われるようになると、問題を指摘する医師が現れます。今でも言われますが、あくまで母乳を提供するべきだというような。
ーー今ではアレルギーや消化の問題から牛乳を新生児に与える指導は存在せず、母乳の代替は粉ミルクとなっていますが、〈母乳神話〉なんて言葉が生まれるほどに、母乳絶対主義の人たちがいて、牛乳が原料となる粉ミルクも嫌いますよね。
Jミルク:粉ミルクが普及する歴史において、やりすぎな面もあったのは確かです。母乳の代替が推奨される多くの動機は、母乳が出る人に対してではなく、労働上や体の問題を解決するためです。粉ミルクを売りたい事情もあり生活の現場に深く入っていくと、そこが面白くない人たちはいるわけで。しかし明治以降に乳児の死亡率はどんどん低くなったのは、母乳が出なくてもそれに代わる栄養がとれたことも大きいはず。それまでは母乳が出なければ米のとぎ汁を飲ませなさいという指導で、圧倒的に栄養が足りなかったわけですから。
人間も、妊娠中に授乳する。
ーー結核が減ったのも治療法が開発された以上に、栄養状態がよくなったことが大きいという話を聞きます。でもその問題が消えると、なかったことにされてしまうという(笑)。乳児以外にも、成長期の子どもに飲ませると牛乳に含まれる牛の女性ホルモンが悪影響を及ぼす! という主張もあります。効率重視のため妊娠している牛から搾乳するので、妊娠中に高濃度になる女性ホルモンが牛乳に分泌され、それが体内に入ると危険であると。
Jミルク:自然界でも牛は年に1回子どもを産み、妊娠期間は約280日です。その妊娠期間も仔牛への授乳は行われ、アンチ派が指摘する〈妊娠中の女性ホルモン〉を含む牛乳を、自然界の仔牛も飲んでいるはずなのですが(笑)
ーー人間も〈年子〉がいて、妊娠しながら授乳しているお母さんはめずらしくありませんよね。
Jミルク:さらに昔は今よりたくさん産んでいますからね。そこで〈母乳を飲んでいる年子が不健康か〉という話を聞いたことありますか?(笑)。新書などにありがちなそういった指摘は、結論ありきで〈為にする議論〉という気がします。