2010年に読み切り『fantastic』(太田出版)で太田エロティック・マンガ賞を受賞し、翌年同作品で漫画家デビューを果たしたシモダアサミさん。以降、多数の作品を発表し、今年5年目を迎えます。“性”をテーマにしたものから、ハートフルな作品まで、複雑な感情や葛藤が丁寧に描かれ、温かみを感じるシモダさんの作風に惹かれ、お話を伺いました。
デビュー作『mon*mon』は自分の“悶々”
――デビュー作は“悶々しながら幸せの一歩を踏み出す人たち”をコンセプトにアラサー男女が描かれた作品『mon*mon』(太田出版)ですが、当初は読み切り作品だったと伺いました。
シモダ 『mon*mon』を描きはじめた当初は、読みきり予定の作品だったんですが、続けて描きたいテーマでもあったので、継続することになって最終的に単行本にしていただきました。単行本になっているのは、アラサー男女を描いている内容のみで、単行本に入りきらなかった中学生の作品を「学生編」として電子書籍のみで販売しています。
――デビュー作から、女性の性欲があからさまに描かれていますが、1番最初に“性”をテーマ選択されたのはなぜでしょう。
シモダ エロティックをテーマにしている「マンガ・エロティクス・エフ」(太田出版)という雑誌でデビューしたので。でもデビュー前の応募作からもエロティックな作品を描いてましたね。もともと中学生くらいから“性”については、強い興味がありました。でも、年頃で人には恥ずかしくて言えないから、ひとりで色々調べてましたけど(笑)。
――オムニバス作品なので、色々な女性の様々な悶々パターンが出てきますが、ご自身の体験やご友人のガールズトークを参考にしたりしているんでしょうか。
シモダ この作品を描くキッカケは、単行本収録の1話めに登場する「佐野さん」っていう女性なんですけど……。
――「恋愛は面倒くさいけど、セックスはしたい」と日々悶々としている肉食系OL・佐野さんですね。
シモダ 昔、女友達が「女の人がオナニーなんかするわけないじゃん!」っていうことを言ってたんですよ。「世の中には色んな人がいるんだから、してたっていいじゃない」って言っても「マジ、無理」って否定されたんですね。「女の人」って大きすぎる括りをされたことに、学生時代から性に興味を持っていた私自身を否定された感じを受けて……。その時の私の感情で描いたのが、佐野さんです(笑)。女性だって性欲はあるんだよ、っていうことを彼女に向けて描いている自分がいましたね。“佐野さん”からはじまった作品でもあり、佐野さんが私の憧れの女性像なんです。彼女は自分が思ったことをハッキリ言える人。そういう部分が自分には足りなかったので、そういう人を描いてるときはすごく楽しいですね。
――「触るのはいいけど、触られるのは苦手な女性」や、「二次元の男性に恋をする女性」、「本当は経験豊富なのに、好きになった相手に経験がないと嘘をついている女性」など登場しますが、これらもシモダさんの一部ですか?
シモダ 『mon*mon』では、ほとんど自分の憧れの部分で描いてます。二次元の男性に恋をする女性は現実の私と少しリンクしますがあそこまでぐいぐい三次元の人にいけないです。
思春期の甘酸っぱさが詰まった『中学性日記』
――『mon*mon』を発売した半年後には、小さなことで悩んだり、興味を持ったりする思春期の中学生を描いた『中学性日記』(双葉社)を発表されました。
シモダ デビュー作の『mon*mon』を読んでくださった双葉社の担当の方が、性をテーマに、中学生が主人公の漫画を描かないか? と声をかけて下さったんです。
――全4巻出版されているわけですが、女性漫画家が思春期の“男子”の考えや行動、性に対しての成長や変化を描くために、どのようにして観察(リサーチ)をしたんでしょう。
シモダ 私自身が大人になっても考えてることや性に対しての疑問などが、男子中学生みたいなところがあるんですけど(笑)、絞り出していった感じですね。あとは、私の甥っ子が3歳の時に、コンビニのちょっとエッチな雑誌を見て、「オッパイ! オッパイ!」って連呼してたり、オッパイの絵を描くと喜んでて。友達の息子にも、胸に風船入れて、「ボイン、ボイン」ってするとニコニコ嬉しそうに触りに来る。友人の旦那さんに「中学生のとき、どんなだった?」って聞いたりもしましたが、やっぱり「女の子のことや、エッチなことしか考えてなかった」っていう答えで、そして大人になった男性も、Twitterとかでオッパイオッパイ騒いでるじゃないですか(笑)。そういうのを見ていると、中学生男子も頭の中はオッパイオッパイなんだろうな~、って私の中にあったイメージが、固まりましたね。
――思春期の「あるある」な出来事に、懐かしい気持ちになるという成人読者の感想も多いそうですが、中高生の反応はどうなのでしょうか。
シモダ 過去にLINEマンガと現在はcomico plus(コミコプラス)という若年層の方たちが多く読まれる漫画のサイトで連載をさせていただいてるんですが、コメント機能がついていて、ダイレクトにコメントが読めるんです。それで、若い方の意見を知る機会は増えたように思います。年齢は表示されないので実際の年齢はわからないんですが、書き方や悩みの内容から、中高生くらいかなぁと思うようなコメントがわりと多くて。コメントを読んでいると、今の子って男女問わず、私が思っているよりも潔癖だなぁと感じることが多いんですよね。
――どんな意見で、潔癖だと感じましたか?
シモダ たとえば上目遣いで話すような、ちょっとだけ男の子に媚びを売るような女の子を描いたときに、コメント欄に「ビッチ」という言葉が躍って。さらに「女性は純潔でなければいけない!」というか、オナニーを知っている女の子とかが出てくると「非処女か!」っていう意見があったり。そもそも少しでも下ネタがあると「こんなことダメだよ!」とコメント投稿する若者とか……。自分に厳しいというか、みんな真面目なんだなぁって感じます。
――これだけ無料でアダルトな情報が入ってくる世の中なのに?
シモダ 情報が多いから、やたらと単語とか行為のことは知ってるんですけど、逆に情報が入り過ぎちゃって、身構えてる部分があるのかもしれないです。今、SNSなどが普及してることもあって、有名人でない一般のアカウントでも、発信した内容に粗があるとすぐに叩かれるじゃないですか。もちろん不法行為を自慢してたりすればそうなんですけど、ちょっとした間違いとかでも。だから、若い人たちは、誰もが安心できるところをすごい探してるようなイメージがあります。コメントを読んでいると、自分自身が他人から攻撃されないように! って身構えてるっていうか、自分で自分を厳しく縛っちゃっている感じの子が多いなぁと思うことがありますね。
――大人の読者の反応は「懐かしい」以外だと、どうですか。
シモダ まだ小さいお子さんのいる方が、子供が思春期を迎えたときに、手に取れるようなところに置いておきたい、っていう感想をくださったのは、すごく嬉しかったですね。私自身、思春期の頃はコンプレックスが強かったんです。背が高いことで男子から「デカい女」って言われたり、周りの女子たちは胸が大きくなっていくのに、私は全然大きくならない! とか、生理も他の人より遅かったのも悩んでたし、でも、そういう悩みって家族にも言えなくて。私の場合は、そこまで深く思い悩んだり、自分を傷つける行為をすることはなかったんですが、なかには深く思い悩んでしまう子もたくさんいると思うんです。この作品の登場人物と同世代の子が読んで「自分と同じような悩みを抱えてるんだ」と思って、少しでも心が軽くなってくれたら嬉しいなぁと思いながら描いていました。