三浦:ワクチンの副作用が現れる確率もそうなんですけど、例えば不妊治療もそうで。40歳で体外受精をしても成功するのはほんの数%なんですが、なぜか「自分はそこに入れる」と信じ込んでいる人が少なくないんですよね。普段お医者様に取材していてもみなさん「どうして何の根拠もないのに数字に対して楽観的でいられるのか」と疑問を持たれていますよ。
ノジル:お、三浦さんが編集された『私、いつまで産めますか?~卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存~』(WAVE出版・香川則子著)にもあった、「でも、その数%に入りたいんです!」と訴える女性の話ですね。あのコメント、すごく印象的でした。
O:ワクチンでも何でもメリットとデメリットがあるものですが、皆さんデメリットは何としても受け入れられないというか、見たいものだけしか見ないというか。数字の見方、考え方を義務教育の過程で身につけられるといいですよね。
三浦:私たちも統計や確率を数学で習いましたが、ただ問題を解かせるだけでは、それをどうやって実生活に生かせばいいかわからない。
桑満:健康雑誌とかには、科学的根拠があるように見せかけるためのグラフがいっぱい載っていますが、0から始まっていないグラフとか、読者に都合よくミスリードしてもらうための数字もたくさんあります。しかも医師が監修しているから、読者は信じてしまう。前篇でも言いましたが、そういった医師はトンデモ系かお金に困っているかで、いずれにしても信頼置けないですよ。
三浦:数字の問題はなかなか難しいですね。ところでトンデモな先生方って学会は不参加なんですか?
桑満:そんなことはないし、発表もできますよ。学会って、誰でも参加できますから。学問の自由があるので、なんならこの座談会の内容を、僕が泌尿器科学会で発表することだって可能です(笑)。初心者向けのポスター部門もありますし(笑)。発表したいことをポスターにまとめて、掲出するだけ、という部門です。でも、〈学会誌〉には載らない。怪しい健康食品の宣伝で〈この効果は、学会に発表されました!〉というのもあるけれど、あれもひとつのワナで、発表は誰でも何でもできるという。
「昔はよかった」って本当?
ノジル:数字は出てこないのですが、お説の根拠がイマイチ分からず、ひたすらキラキラしたイメージで「命って大切!」って語るという印象の強い〈誕生学〉なんかも、関わっている医師や専門家は軒並みトンデモという感じです。いつもしつこく名前を出して申し訳ないですが(笑)、胎内記憶の池川明医師と、経血コントロールの三砂ちずる氏ですからねえ。
桑満:親学も相当にトンデモでしたが、誕生学はさらに上をいくトンデモなのかな。でも私の専門は泌尿器科医で、さらに男でしょ。誕生学周辺は、産婦人科医の女医さんに検証していただいたほうが説得力が出るでしょう。
下戸山:江戸しぐさもそうでしたけど、道徳風な素敵な話に聞こえるから、誕生学とかは批判されにくいですよね。
O:今年は国際NGOであるヒューマン・ライツ・ウォッチや東京都議会議員のおときた駿氏などが乳児院や児童養護施設を否定し、里親制度をもっと進めようなんて動きもありましたよね。里親制度が悪いとは思いませんが、専門的なケアが必要な子どもだって多いはずだし、あまりに極端な発信が多くて偏見を招きかねないと思いました。でも、これも一見「温かい家庭」というイメージがあるからか、批判されにくいですね。
三浦:どうしてそこで施設の改善を議論せず、施設否定、家庭礼賛になるんですかねえ。
桑満:里子が珍しくない米国でも、ハリウッドのオシャレな人たちは経済的余裕もあるからそれができるんですよ。日本で里子制度をどんどん進めろといってもいろいろ難しいと思いますよ。文化的にも日本は〈神様が見ている〉という強い信仰心がないから、家庭という密室に里子を送るのは、すごく微妙なことです。ちょっと生意気な考え方かもしれないんですけど、昭和初期生まれって、第二次世界大戦敗戦によって以前の生活が否定されたから、いわゆる生活のお手本がないんですよ。だから「主婦の友」とかの情報誌に影響されやすい。もしくはスポック博士の育児本とか。つまり、その世代の言う〈理想的な家庭像〉とは、イメージ先行で実態のない幻想なんですよね。田舎ですとそのコミュニティなりの育て方とかがあるけど、核家族化が進んだ時代でもありますし、都市部では身近なお手本がなく、作られたイメージのお手本を参考にした人が多いのでは。
O:そもそも〈昔はよかった〉と言われても、言っているその人たちが子どもの頃だけの話ですよね。それって伝統じゃなくない? みたいな。
ノジル:親学、江戸しぐさ、食育、自然派のひとたちって、昔はよかった、伝統は素晴らしい的なことを言ってるけど、本当にそうでしょうか?
桑満:これはきっちり数字で追わなくてはいけないと思うんだけど、僕が思うには丁稚が一般的だった明治時代あたりは自殺率が今よりもっと高いと思いますよ。7~8歳とかで丁稚に来て、いじめられて自殺したような子どもはたくさんいるはず。しかもそのころには警察に届けもしないでしょ。昔はよかったって、全然よくないでしょう。