三浦:「現代は少年犯罪が増えている」とも言われますが、昔のほうがよっぽど多いことは統計でも出ていますよね。いくら昔の暮らしが素朴で穏やかで幸福そうに見えても、私は生理ナプキンがなかった時代とか絶対嫌なんですけど(笑)。使い捨てナプキンの登場によって女性が社会進出できたし、家電の進化によって生活は確実に快適になっている。それを全部否定して、昔はよかったって言われても。
桑満:〈昔はよかった系〉やると、某財団とかお金出してくれそうだから、助成金狙いなのかも(笑)。実際どうなのかは知りませんが。
O:最近、伝統は素晴らしい系で気になったのは、ネット見かけた「マナーキッズ」っていう団体。「日本の伝統的な礼法を体験し、〈体・徳・知〉バランスのよい子どもを育てる」んですって。「礼儀正しさのDNAは残っている!」なんて謳い文句もありましたね(笑)。親学に似ているなと思ったら、理事長・副理事長は親学の〈親守詩おやもりうた〉のコーディネーターをやったことのある方でした。あ、親守詩って、親への想いを子どもに5・7・5で詠ませるというものです。
ノジル:自発的に賛美してくれるならともかく、押しつけが気持ち悪い。
O:子どもは断れませんからね…。だからこそ、子育て系にはトンデモがたくさん入ってくるんだと思います。ひどいです。
下戸山:昔はよかった系の人たちって、やたら〈日本は特別〉って思っていますよねえ。これも、優生学や選民思想がどこかにあるからなんでしょうか。
O:言っているうちに、気持ちよくなっちゃんでしょうね。自分たちはそんな素晴らしい日本人である!と。
三浦:似たような感じで、子宮系女子は、自分たちは子宮があるから特別であるという言い方をしますね(笑)。
ノジル:ていうか、素晴らしい自分であるための理由をこじつけレベルで追い求めるのって、逆に自己肯定感の低いことの表れだと思うんですが。あ、そこで誕生学が「自己肯定感を高めましょう! 命ってすごい!」ってはげましてくれるんですね。役立つなあ(棒読み)。
あの戸塚ヨットスクールが幼児教育参入
三浦:ここ最近、戸塚ヨットスクールが幼児教育始めたなんてニュースもありましたね。この間ノジルさんとも話してたんですけど、私たちの世代って、昔の戸塚ヨットスクールの死亡事件の記憶があるから、名前を聞いただけでも「あそこはヤバい」と反射的に思うんですけど、知らない親ごさんがそれを知らずに子どもを預けてしまうんでしょうか。マナーキッズもそうですけど、〈叱る〉ということを外注したいんですかね。
桑満:お寺で預かった子どもに暴行して、〈しつけ〉と言い訳していた事件もありましたね。
O:戸塚宏氏は、事件後も「体罰の会」に入っていて、そのHPには、体罰を〈「進歩、進歩」と頭の中で言いながらやってください〉なんて書いてある。恐怖です。
三浦:なんだか極端ですよね。暴力しか方法を知らない人たちがいる一方で、「命の授業」を押し売りしてくる団体もいる。
O:「命って大切だよ!」も、結構な暴力だと思うんですけどね。ひとクラスに数人は、命のキラキラ話に感動している友だちを見て「なんで同じ命なのに、自分だけひどいめに遭っているんだろう」と傷つく子どもがいるわけで。虐待されている子どもとか。それなのに、講師は自分の話に自分で感動して涙ぐむ、みたいな。感動の搾取では。
三浦:二分の一成人式も、親の感動のためって感じですよね。
下戸山:先生と親が感動したいんでしょうね。
桑満:ところでですが、お洒落な産院で出産するのって、いつごろからブームが始まったんですか?
下戸山:松田聖子さんの山王病院じゃないでしょうか。
桑満:あれで一気に、出産にイベント性が加わっちゃいましたよね。でも、芸能人たちのようにお金はかけられないので、〈ああいう出産はできないけれど〉という人のエネルギーが、いかに手をかけるというキラキラ話に向かうのかなと。
三浦:最近はハーフバースデーというイベントもありますよね。誕生から6カ月でお祝いする。これだけ子どもが少ないと、市場としてはひとりの子どもにどれだけお金をかけさせるかが命題になりますよね。で、どんどん商業化、イベント化される。その究極が「私らしい出産!」という煽りなんじゃないかと。
下戸山:どこにお金をかけるかは、もちろん自由なんですけどね。
ノジル:イベントは大いにやればいいですが、命に係わることはやめていただきたい。
O:そうそう。怪しいものも楽しいよねというスタンスで、大人が個人的に好むのはいいと思います。でも、子どもにおしつけたり、公の教育に入り込んだり、他人にすすめたり、心身の健康にかかわってきたら絶対ダメ。
桑満:昔のお祭りに行くと、怪しいものがいっぱいあって楽しかったじゃない? あれはあれでいいんだけど。
O:怪しいものを怪しげなものとして楽しむんじゃなくて、根拠も明らかにせず〈これは正しいものです!〉みたいになるとまずいですよね。
桑満:最近のトンデモ物件って、〈囲い込み〉がすごいんじゃないですかね。組織化していたり。
下戸山:何十万円もかけてセミナー受講してなんちゃらアドバイザーとかの資格を取っちゃったら、元をとるまでそこで生きていかなくちゃならなくなりますよね。