坂本脚本ならではの長い台詞応酬シーンはまだまだ続きます。今度はすずめが「でも真紀さんには帰るとこあるじゃないですか。(中略)躊躇なく壁に画鋲させますよね」と真紀を執拗に攻撃します。喧嘩腰というより冷めた口ぶりながら、粘着質に夫のことを質問しまくるすずめに怯まず、真紀は再び饒舌に語り出します。結婚後、いつも夫の好きなものを探りながら料理をしていた真紀がある日唐揚げを作って出したところ、夫は今までにないくらい喜んで食べてくれ、以来唐揚げが定番メニューに。しかしある時たまたま居酒屋で夫を見かけます。夫は唐揚げを注文していましたが一緒に来ていた後輩にレモンをかけるか聞かれ、夫は「いい。俺、レモン好きじゃないから」と答えていました。でも、真紀は2年間ずっと、夫の目の前で、夫の食べる唐揚げにレモンをかけていたのです。そのことが許せなかったと言う真紀に、愉高と司は「それは夫さんの優しさ、気遣い、愛情」だと擁護するのですが、なんだろう……許せないというか、ショックですよね。「レモン好きじゃない」と教えてくれればいいのに、そうしないで我慢して食べている夫。真紀はもう夫の言葉の色々が、たとえば「美味しい」とか「楽しい」とかが彼の本音なのかどうかわからなくなって、何も信じられなくなったんじゃないでしょうか。さらに、居酒屋で真紀の夫は後輩に「奥さんのこと愛しているんですか?」と聞かれ「愛しているけど好きじゃない」とも答えていたそうです。
そんな真紀の夫は、1年前失踪しました。「夫婦って別れられる家族」「人生には3つ坂があるんですって。上り坂。下り坂。まさか」「人生ってまさかなことが起きるし起きたことはもう元には戻らないんです。レモンをかけちゃった唐揚げみたいに」と、名言を吐きまくる真紀は、もう帰るところがないしここ(別荘)でみんなと音楽と暮らしたいと宣言しました。
ほかの3人はというと、すずめはもうすっかり別荘に居着いている様子です。ドラマ冒頭、東京の路上で演奏していたすずめですが、詳しい過去は不明です。前から軽井沢付近に住んでいるはずの愉高も「一緒にいればカルテットの結束も固まる。僕はずっと暮らす」と週末以外も別荘で生活することにしたようです。すずめも愉高も、今まで住んでいた家は引き払ったのかそのままにしてあるのか、よくわかりません。2人ともお金に余裕はなさそうです。ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラといった弦楽器は、裕福な家庭の人間がたしなむ音楽のイメージがありますが……。別荘は司の祖父所有ですが、司はいつから別荘で暮らしているのか、カルテットを組む前のことはやはり不明です。ほかの3人も帰るところがないのでしょうか。
“ベンジャミンの嘘告発”と“真紀の夫さん”を巡って繰り広げられた4人のぶつかり合い。ですが、感情をぶつけ合っているように見えて、4人ともまだ本性を見せるには至っていないというか、どこか上っ面感があります。知り合ってカルテットを組んで間もないのだから当然かもしれませんが、デリケートで際どい話をしているにもかかわらず、みんな仮面をつけている感じで、視聴者側は4人それぞれの真意を捉えかねます。不気味だな~、こいつら一体何を考えているんだ? という感じ。真紀にしても、ベンジャミンや夫のことでかなり饒舌になっていましたが、べらべら繰り出す言葉たちが彼女の本心そのものというわけではなさそうです。