カルチャー

『高齢者風俗嬢』に見る、たくましい老齢女性の生きざまと、いきすぎた性風俗肯定論

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 「74歳の“最年長AV女優”」「82歳のホームレス・デリヘル嬢」「70代の“ナンバーワン”ソープ嬢」ーー『高齢者風俗嬢』(中山美里著、洋泉社)は目次を見ただけでも鬼気迫るものがある。怖いもの見たさで本書を開く人もいるかもしれない。

 しかし、ひとたびページを繰れば、彼女らは老境にあってなお経済的に困った状況にあり身体を売るしかないのだろう……という陳腐な想像は軽やかに裏切られる。超熟女のAV女優は撮影現場でハードな絡みがあっても「撮影していると頭がコーフンするのか、疲れをまったく感じないのよ」といい、老舗ソープ店で30年以上のキャリアを持つソープ嬢は「昭和の時代の完璧なおもてなし」が高く評価され、79歳の女性はその年齢でも働ける性風俗店があると聞き「いやー、行ってみたい~」と思い、すぐに行動している。そしてその店には、70~80代の女性が20名以上在籍しているという。

 借金や経済的事情がきっかけになっている例もないわけではないが、自己実現のために性風俗を仕事とし、高い職業意識でもって接客する“高齢者風俗嬢”の姿に悲壮感はなく、明るさとたくましさだけが印象に残る。「先が短い」「だから、いまの性を愉しみたい」という刹那的ではあるが前向きな性衝動に突き動かされて行動する女性たちの生きざまに、著者は励まされ、共感していく。

 日本社会では女性を「若さ」で評価する傾向が強い。それは厳然たる事実だが、その一方でAVや性風俗において「熟女」ジャンルはなくてはならないものになっている。その上を行く“超熟女”といわれるジャンルまで出現しているが、それもこれも「需要があるから」である。

「下流老人」への不安を軽減

 自身の年齢があがると、恋愛・性の対象となる女性の年齢も上がる男性は少なくない、と著者は指摘する。つまり高齢化社会こそが、熟女・超熟女ジャンル台頭の土壌となっているのだという。本音では若い女性と遊びたいという人もいるが、「こんなジジイじゃ嫌われるのでは」というコンプレックスが邪魔をする。その点、熟女や超熟女はすべてを受け入れてくれる……というのは勝手な妄想にすぎないようにも思うが、本書に登場する高齢者風俗嬢たちからは、たしかに度量の広さが感じられた。

 若い風俗嬢と同じ土俵に載らず、それまでの人生で培ってきた人間性や個性、年齢を重ねているからこそできる独自のサービスを武器に自身を売っていく戦略には、いまの社会が求める“経験値を活かして活躍する高齢者”への示唆も多く見られる。

 生きていれば、誰もが必ず年をとる。“下流老人”という語を頻繁に耳にするいま、若い世代でも老後への不安が少なくない。が、高齢者風俗嬢たちのタフな生きざまを見るとそんな不安も少しは軽減されるような気がする。著者も、「いくつになっても、元気で働けばなんらかの形で稼ぐことができ、ニコニコしながら柔軟に生きていれば求めてくれる人がいる。本当に最低限必要なのは、健康な心と身体だけなのだなと実感できるようになったからだ」と感じ入っている。

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婦人公論 2017年 2/14 号 雑誌