――不眠の症状が出てから2年以上が経っても、まだ更年期だから婦人科に行ってみようとはならなかったんですよね。
「まだです(笑)。いまこうやって話していると、ホントにもう完璧に更年期の症状なんですけれどね。あの頃は『更年期かもしれないから婦人科に行ってみよう』とはなりませんでした。自分と更年期がどうしても結びつかないんです」
――やっぱりまだ40代前半であるということで、更年期だと認めたくない意識があったのかもしれませんね。
「おっしゃる通りです。まさか更年期のわけはないと、思い込んでました。そうこうしているうちに、今度は指先が痛くなって、リウマチかもしれないと思って内科に行ったんです。血液検査もしたけど原因はわからなくって。『膠原病の疑いがあるから専門医にいってみて』といわれてまた専門医に行って検査を。でも、そこでもなんでもなくって。そのうちに痛みだけじゃなく指先が冷えるような感覚がおきて、もう一日中ずっと指先が気になって包帯をぐるぐる巻いて保護したりしてました。その頃、更年期障害で悩んでいるちょっと年上のお友達から、更年期の症状として体の強張りがあるという話を聞いてはいたんですけれど……私の場合は指先でしたから」
――だからやっぱり更年期じゃない、ほかの病気だと、そう考えてしまったわけですね。それで次から次へと病院を巡る、いわゆるドクターショッピングをしてしまった――。
「不眠、イライラ、指先の強張りと冷え、激やせ、それに心臓の痛みもありましたから、ほんとうにいろんな病院のいろんな診療科をまわりました」
――その中で、誰ひとりとして『更年期かもしれないから女性ホルモンの値をはかってみましょう』というドクターはいらっしゃらなかったのでしょうか?
「言われなかったです。心臓外科でも内科でも……それは私がまだ年齢的に若いと思われたせいなのか、お医者様に知識が専門分野以外の知識がないのかはわかりませんけれど。症状を言うと、どのお医者さまもびっくりするぐらいいろんなお薬は出してくれるんですけれどね。当時、私の家には処方された睡眠薬やら精神安定剤やらがあふれていました」
――お話を伺うだけでかなり壮絶ですが、45歳になった頃、ついにご自分で更年期だと判断して病院に行かれたんですよね。そのきっかけってなんだったんでしょうか。
「お正月に、家に私の親が遊びに来ることが決まっていたんですね。それは自分で計画をして、かなり前からわかっていたことなのに、年末になってもどうしても準備ができないんです、掃除や料理の。それで夫に『ちょっとは手伝ってくれてもいいのに!』とまた怒鳴り散らして。散々怒鳴り散らしたあげく、最後には『私、もうできそうにないからあなたが料理を作ってくれたら嬉しいな』とかめちゃくちゃなことを言いだす始末で。さすがに、『私、おかしいな』と」
――自分がめちゃくちゃなことを言っている、どこかがおかしいという自覚はあるんですね。
「そうなんです。自分がおかしい、おかしな言動を取っているという自覚はあるんですよ」
――美佳さんはお料理はお好きなんですか。
「料理は大好きなんです。お客様に料理を振る舞うことはまったく苦じゃなかったし。それなのにあの頃はただキッチンのシンクをボーっと眺めて、とてもじゃないけど料理なんて作れない、お皿はなにを使えばいいのかわからない、と考えるようになって。年末年始は夫の協力もあってなんとかやりすごしましたが、お正月明けにはついに布団から出られなくなって仕事場に行けなくなりました」
――それで病院に?
「いいえ、それがまだ(笑)。お正月が明けて、少し自分の調子がよい時に更年期に関するイベントが地元であって。更年期に悩んでいるお友達につきあって、私もイベントに行ってみたんです。そこではじめて40歳で様々な症状があったという更年期体験者の方のお話しを聞いて……その時に突然『あ、私、更年期だ!』とわかったんです」
――ストンと腑に落ちた感覚でしょうか。
「はい。まさにそんな感じでした。あと、HRTという治療法があることはそれまでも知識として知ってはいたんですけれど……使用できる期間は長くても十年と言われている、と雑誌かなにかで読んでいて。それなら私はなるべく治療のスタートを遅くして、できれば40代後半から50代後半までの一般的に一番苦しいと言われる時期を治療に当てたいと考えていたんです。いまはまだ始めるのには若すぎるから我慢しよう、そう思っていたんでしょうね」
――HRT補充療法。張り薬や塗り薬などで女性ホルモンを補う治療法のことですよね。HRT10年説も、いまは変化しているようですが……。
「自分が続けたいならずっと継続しても問題ない、十年で区切る必要はない、とおっしゃる先生もいらっしゃいます。実際に、私が通うクリニックには60、70代でもHRTを継続している方もいらっしゃいますよ」
後編では、美佳さんの受けている更年期障害の治療について、詳しいお話をお伺いしていきます。