――お話を聞けば聞くほど、旦那さまにも男性更年期の疑いがあるように思います。ご自身が更年期を体験されたこともありますし、いま旦那さまにも『病院に行ってみたら?』とアドバイスはされていらっしゃるのでしょうか? 男性の場合だと、診療科は泌尿器科や、専門の男性更年期外来やメンズヘルスクリニックを受診するのが良いのでしょうね。更年期と判断された場合は、男性ホルモンであるテストステロンを補充するようです。
「何度か言ってみたんですよ。『更年期じゃない? 病院に行けば楽になるかもよ』って。けれどなかなか、じゃあ病院に行ってみようかなとは思えないみたいですね」
――女性でも更年期症状を自覚しながら受診せずに、ただひたすら我慢してやりすごす方もいらっしゃいますものね。特に男性の場合、更年期があるということも認知が広がっていませんから、自らの更年期を認めることは難しいものなのかもしれません。
「あの実は……うちの場合はですね、不妊治療をしていくうちに、夫のほうが男性不妊であることがわかったんです。当時、病院でそう診断された時にお医者さんから『あなたにはもう治療の手立てがなにもない』と言われてしまって。その言葉に夫がとても傷ついてしまったんですね。なので、セックスレスになったのは、あの言葉が未だに尾を引いているような気がします」
――そんな身も蓋もない言い方されたら、そらぁ引きずりますよ! 随分と雑なもの言いをされるお医者様ですね。
「そこから、セックスしても途中で……いわゆる中折れしてしまうようになったんですね。そういう状態になって、そこから寝室を分けてしまったので完全にセックスレスに」
――セックスはなくても、たとえばキスやハグなどのスキンシップはどうなんでしょうか?
「それはあります! おはよう、おやすみ、いってらっしゃいのキスは毎日ですし。ハグもしょっちゅう」
――そのキスは、チュッって感じの軽いキスで、激しくディープなものではない?
「そちらのキスには絶対にならないんです。おはようチュッ、なので。もう言葉と同じ感覚です。あ、一緒に寝ることもあるんですよ、同じ布団で。寒い時は、体もピタッってくっつけて寝たりしてます」
――どれだけ密着しても「じゃあセックスしようか」とはならない?
「はい。何がきっかけでこうなってしまったのかがわかっているので、私も彼の気持ちを思うと、中折れもセックスレス状態にも納得してしまうというか。無理強いするものでもないですし」
――このままもう一生旦那さまとのセックスがなくっても仕方ない、そう思われてるんでしょうか。
「う~ん……どうでしょう。私が体力的にも元気なうちに、できれば再開したいなぁとは思っているんですけれど。きっかけがなかなか、ね」
――男性は、セックス=ガッツンガッツンパシンパシンってイメージのパワーセックスと思いがちですけれど、それが絶対ではないと思うんですよ。お互い裸になって、ただ肌を合わせることに重きを置きたい日もあるというか……。けれど、それをどういう風に男性に伝えるのかは、かなり難しいところですよね。特に美佳さんの旦那さまの場合、そういった経緯がありますから……。
「チャンスがあればそういう話もゆっくりとしてみたいと思っています。でもその手の話題には特にデリケートになっているので。いまはまだしばらくは様子を見る感じですかね……。女性の場合は、濡れなくなったら私が助けてもらってるように潤滑ゼリーを使えばいいんだけど、男性は勃起しなくなったらそこで男として終わり、みたいに思っちゃうのかなぁ」
――特に40~50代の男性だと、勃起して挿入して射精して、のフルコース以外はセックスではないと思いがちな年代ですしね。いまの10、20代の男の子だと、またセックスに対する考え方も違うような気がしますが。それにしても、女性は40~50代でもHRTで更年期障害を克服してどんどん元気になっていき、対して夫はどんどん元気がなくなっちゃう……難しいですね、夫婦のセックスって。ところで美佳さん、HRTをこの先もまだずっと続けていこうと思われているんですよね。
「はい。この先閉経しても、骨粗しょう症になる可能性もありますし。それを避けるためにも、私は担当医と相談しながら出来るだけ長くHRTを続けてホルモンを補充したいと思っています」
――HRTにはひと月どれぐらいの金額がかかると思っておけばいいでしょう?
「健康保険が適用されているので、薬代+診察料で1カ月あたり約5,500円前後の金額がかかると思っていただけたらいいんじゃないかと思います」
――HRTに行きつく前、ドクターショッピングをしてサプリメントや漢方を片っ端から試されていた頃は、すごいお金が出ていったそうですが、いまはHRTを選択し、1カ月に5,500円で、しかも美佳さんの場合は劇的に症状が改善された。となると、同世代女性にもHRTをオススメしたいと思われますか?
「はい、1カ月に5,500円は決してお安い金額ではありませんが、私は勧めたいです。私の体験から言わせていただくと、HRTを選択するかどうかは、体と心が元気なうちに決断したほうがいいように思います。更年期の症状が重くなると、どんどん冷静な判断ができなくなっていきますから」
<取材を終えて>
小柄でいまも充分にほっそりと華奢な体型の美佳さん。この体型がさらに細くまるで鶏がらのように痩せ細ってしまったなんて、当時はきっと痛ましい限りだったに違いない。最近では歌手の高橋真梨子(67)や女医でタレントの西川史子(45)も更年期による激やせを告白している。「食欲がなくなる」「食べ物を食べてもまるで味を感じられず、砂を噛むよう」というのも更年期の症例として非常に多いようだ。
この社会では多くの男女が自分を「若い」と思い込みたがっている。けれど年齢に縛られて「私はまだ若いから、更年期なんかじゃない」と思い込むことがどれほど危険なことなのか、美佳さんのお話を聞いて痛感した。ホルモンの乱れは年齢に関係はない。40代前半でも30代後半でも更年期になる可能性はあるということを、もっと多くの女性に知ってほしいと強く感じた。
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