半田には沈黙を貫きましたが、愉高、実は茶馬子&西園寺&子どもの居場所はある程度わかっていました。離婚時、愉高は息子にこっそりヴァイオリンを持たせたのですが、茶馬子は送り返してきて、その際の宅配伝票が愉高の手元にあります。茶馬子は自分の正しい住所を書くほどバカではないが、偽装して遠くのコンビニに出すほどマメでもないそうで、集荷したコンビ二「スターマート 横須賀名取台店」(伝票に店名入りの引受印あり)の近辺に住んでいるのではないかと愉高は推理しているわけです。ちなみに茶馬子の偽造住所は東京都港区(見栄っ張りなのかな)、当時の愉高の住所は東京都調布市。荷物は平成28年2月13日に出され、配達予定日は同年2月14日(バレンタインだし!)。愉高は少なくとも約1年前までは東京に住んでいたんですね。いつから軽井沢の美容院で働きはじめたんでしょうか? ていうか、愉高のヴィオラを持ち出した隅田は、茶馬子が送り返してきた荷物を発見できなかったんですかね~。せっかく部屋に入ったんだから家宅捜索すりゃ良かったのに。
自分の結婚にまつわる過去を話し終えた愉高は「明日、茶馬子に会ってきます。会ってちゃんと話つけるように言ってきます」と。愉高は茶馬子ではなくまず息子を探すんだそうです。ダメ夫さんだった愉高ですが、2人組にどれだけ脅されても口を割らなかったのは、息子の身を案じていたから。こうなったら、息子さんに会いたいんでしょう。
翌日、横須賀までワゴンを走らせる愉高。愉高の恋人のふりをするすずめも一緒です。目星をつけた小学校の校門付近に立って、下校していく子どもたちをウォッチングする彼らは早速先生たちに怪しまれます(シチュエーション的に、不審者もしくはDV夫が子どもを連れ去りにやってきたのかも……と、先生たち警戒しているのではないでしょうか)が、ビンゴ! 愉高と息子くん、無事に再会できました。息子の光太くん(大江優成)、ランドセルカバー見る限り1年生っぽいですが、リコーダーでたどたどしくも『Are you sleeping?』弾いています。すごいわ。けれど「離婚」の意味は正しく理解していないのか愉高に「帰ろう」と言う光太くん。愉高は思わず光太くんを抱き上げ「パパとこ来るか」と、連れ去ってしまいました。ちょうどそのタイミングで元妻さんの茶馬子(高橋メアリージュン)&西園寺(永島敬三)が腕を組んで登場し「何してんねん!」と叫んだものの、2人組・半田と隅田がタイミングよく現れたため誘拐は大成功、光太くんは別荘に。寝る間際の光太くんに「あのさパパ、いつ離婚終わるの? だいたい何月くらい?」と聞かれた愉高は切なくなったのか、唐突に「俺カルテット辞めよっかなあ。定職就いて、また家族やり直してみようかな。俺が働いている姿見たら、茶馬子も考え直して……」と言い出しました。
これまたちょうど、そこに茶馬子来訪。半田から別荘の場所を聞き、息子を取り戻すべく颯爽とピンポン連打、ここから始まる高橋メアリージュンの関西ヤンキー姉ちゃんふう演技が絶品でした。彼女が元夫・愉高に投げつける台詞も、ああ坂元裕二作品。『最高の離婚』で散々語りつくされたような気もしていましたが、まだまだあるよ“夫婦悲哀あるある”。
「私の中ではあの男(愉高)も死んでますけどね」
「この世で一番鬱陶しいんはな、もういっぺんやり直したい言う男や」
「なんで男って他人の言うことは信じるのに、妻の言うことは信じひんのかなあ」
「こっちは保育園の月謝払えるかどうかに悩んでるのに、やっぱり音楽やりたい?」
「20代の夢は男を輝かせるけど、30代の夢はくすますだけや」
中でも、もっと幼い頃の光太が熱を出し寝込んでいるのに、愉高が「別に病院行かなくていい」と素知らぬ顔をしていて結局肺炎を起こしかけていたというエピソード。不満と不信感が茶馬子の中に積もり積もって、爆発した結果、離婚しかなかったのでしょう。
それでも光太を愛しく思う愉高は「光太はまた3人一緒に暮らしたいって言ってる」と復縁を求めます。
茶馬子「子どもとちょっと一緒におるだけで自分はええパパやって思う錯覚やで」
愉高「やり直してみようよ。俺働くし、光太のためにもう一度頑張ろ」
茶馬子「あほ、子を鎹にした時が夫婦の終わる時や。もう遅いねん、あんたはな、絶対言うたらあかんこと言うてん」
愉高が犯した禁忌。
茶馬子「『あーあ、あの時宝くじ引き換えておけば今頃……』って。今頃何? そこにあたしはおらんかったやろ? 光太は、おらんかったやろ?」
もし宝くじを引き換えていたら、愉高は場末のスナックで飲まなかったし茶馬子に出会うこともなく光太は誕生していません。
茶馬子「妻ってな夫にな『もし結婚してなかったら』って思い浮かべられることほど悲しいことないよ。残念やったね、6千万」
一度放ってしまった言葉は、決して取り消せません。愉高がその「あ~あ……」を口にした瞬間から、夫婦および家族でいる道は閉ざされたのです。その道を閉ざしたのは、ほかでもない愉高本人なのです。これ以上はどうすることもできず、復縁は諦めるよりほかありませんでした。もとより養育費も支払っていないでしょうし、復縁したからといって現状無職の愉高は茶馬子の足手まといだったでしょうね。
どう転んでも復縁はあり得ないからなのか、茶馬子はもう、愉高に何も期待していません。翌朝、別荘に半田が現れて返却したヴィオラを愉高がぶん投げようとしたとき、茶馬子はそれを静止し、「あんたは、そのまんまでええと思うよ」と笑いました。期待していないから、求めないから、優しくもなれるのかもしれません。もし夫婦だったら、父親としての責任を果たして欲しいと思ったら、彼に「そのままでいい」とは言えないでしょう。