いざ、実食!
JR恵比寿駅からすぐのところにある、年季の入った建物『えびすストア』の一角に店はあった。いかにも和菓子屋というたたずまいだが、いかんせん『えびすストア』が古き良き商店街といった趣で、古くからの魚屋などが軒を連ねているため、庶民的なイメージはぬぐえない。カウンターに園山が立っているのかと思いきや、違う女性が切り盛りしていた。園山はどこでなにをしているのだろう……。
事前の情報で知ってはいたが、バラ売りはしていないようだ。ひとつ350円という、きんつば界にしては挑戦的な価格であるためこれはキツい。5個入り、10個入りがカウンターの中にあったが、これを家に買って帰っても賞味期限内に食べきることができるか心配だ。と悩みながらレジ横をふと見ると、2個入りが売られていた! すかさず購入。カウンター向かって左側はちょっとしたスペースがあり、イートインコーナーとしてはちょうどよさそうだったが、雑然とモノが置かれ、それらをついたてで隠してあった。「散らかっててすみません、もうちょっとしたら片付くと思いますので……」と店員さんが言っていたが、例えば自宅兼店舗として店を構えたけれど、店主の元来のルーズさから店舗に徐々に家の荷物が置かれ雑然としてくる……といったような、残念な印象を受けた。
そんなことを感じながらそのついたての奥の壁をみると何か書いてある。聞けば園山が書いたメッセージのようだ。よく見るとなんと! 「ご愛さつ」って書いてある! 「立ち愛出産」の樫木裕実かっ! その「ご愛さつ」は結構長めで「『豆』はかけがえのな……なぜならば、……豆の素晴らしさは……」などと書かれているのだが、下のほうの文字が、雑然と置かれた荷物で見えない。とんだご愛さつである。園山が語る豆の素晴らしさが全然伝わらなかった。
袋には「創刊号!! 豆しんぶん」が同封されていた。豆のまめ知識や、きんつばの美味しい食べ方などなどが記載されている。豆が王様になっているイラストやウサギのイラストなんかが書かれていて壁新聞のようである。2個入りの袋を開けると園山からのメッセージカードが入っているほか、「豆園」のきんつばのこだわりなどが書かれた紙が2種類も入っていた。メッセージ多すぎである。
ところでこれらに書かれている「豆園」のこだわりは、きんつばの餡に小豆だけでなく黒豆も使っていること、皮には無調整調乳を使っていることのようだ。「豆しんぶん」には『3種の豆達の集結させた、まさに“豆の園”です。』(原文ママ)とある。甘み付けに使用しているのは奄美大島のさとうきびから作られる「素焚糖」とのこと。「豆しんぶん」には『厳選された真愛(まめ)素材たちのおかげで、一口ごとに素材の味をたのしめるきんつばとなりました』とあるが、“真愛”で「まめ」とはなかなか読めまい。キラキラネームか。
おそるおそる食べてみたところ、甘みが少なく、ほのかに餡も香ばしい。黒豆効果は大きいようだ。なにしろあんまり甘くないのでペロッと食べてしまった。悔しいがそんなに悪くはない。むしろ美味しい。「豆しんぶん」に書かれてあった“おいしく食べる方法”(レンジでちょっと温めるだけ)を実践したせいか。けどこれからも350円を払って食べたいか? と言われたら微妙なところ。試しに食べ比べてみようと思い、きんつばが人気と噂の、とある街の小さな和菓子屋でも買ってきた。こちらは1個なんと95円。園山のきんつばのボッタクリ具合がよく分かるというものだ。食べてみると、小豆のみの餡で甘さも強い。たくさんは食べれないがお茶にはピッタリ。うう〜ん、どっちも好きだが、筆者としては気軽に買える95円きんつばが圧倒的に勝ちだなぁ……。
というかきんつばって、人生で10回も食べたことがないような気がする。周りに聞いても同じような答えが返ってきた。きんつばマニアといった存在も(いるのかもしれないが)メジャーではない。このように買う側もきんつばに対して口が肥えてないことが多い上に、きんつばという競争率の低そうな世界であるから、いけると踏んだのだろうか。でも餡を皮で包んだだけというシンプル菓子・きんつばは、一度食べたら当分食べなくてもいいや、と思わせる類いの菓子でもあるだろう。この店が来年も続くか? と考えたら微妙である。またバラ売りをしていないことから見て、お土産用に使うという用途を大いに想定しているのだろうとは思うが、それなら老舗の和菓子屋で買った方がずっと印象が良いだろう。なかなか前途は厳しそうだ。
しかし、筆者はこの「豆園」のきんつばで園山の豆への愛を再確認した。「園山」時代から料理に豆を多用してきていたが、小豆、いわば豆で勝負が決まる、きんつば屋をはじめたこと、その中でも豆にこだわりぬいて作っているということには感服した。園山は料理の腕はいざしらず、日本で他の追随を許さない“豆”マニアなのではないか。また豆でダイエットに成功したことから、豆への感謝は尋常ではないのだろう。もうこのまま、いくところまでいって、豆と心中してほしい。その前に、店を片付けて「ご愛さつ」がすべて読めるようにしてほしい。
■ブログウォッチャー京子/ 1970年代生まれのライター。2年前に男児を出産。日課はインスタウォッチ。子供を寝かしつけながらうっかり自分も寝落ちしてしまうため、いつも明け方に目覚めて原稿を書いています。