余談ですが、似たようなノリでは「バースカフェ」という、出産体験をテーマにトークや対話、映像鑑賞、体験談などを共有するというイベントもあるようですね。こちらは〈自然分娩絶対主義〉で超有名な、吉村医院の元婦長である岡野眞規代氏が発起人のひとり。〈自然なお産派〉って、出産をキラキラ語るのが本当にお好きですな~。誕生学そのものは〈どんな出産もすばらしい〉というスタンスですが、提唱者はかなりの自然派出産推し。でも、このお話はまた次回で。
さて講座の内容に話を戻し、「では、まず自分から」と、おもむろにご自身の出産体験を語りはじめる講師。あらら、すでに涙ぐんでおりますよ。誕生学は〈ロマンチックに伝える〉ということもウリにされているようですが、出だしからさっそく〈感動モード〉への演出キター。引いてしまう……というか、単純にびっくり。
しかし参加者のお母さん方は動じず、負けじとそれぞれのお産体験を語りはじめます。その詳細はここではお伝えできませんが、共通点は〈帝王切開や陣痛促進剤〉などの医療措置を〈残念〉と思い、「自分の力で自然に産めなかった」とネガティブな感情を抱えていること。これといったトラブルはなく順調に産めた人は「お産を楽しめた」という言い方をしていました。これらのことからは、この場にいるのは、出産に夢をもっている類の人なんだなということがわかります。
バースレビューが終わると、いよいよ誕生学本編です。
新生児の実物大人形を使い、出産時に骨盤や産道をどのように通過して生まれてくるかといったことや、イラストパネルで妊婦の体がどう変化していくかなどの説明です。う~ん、これって母親学級とかでもやっていそうな、ごくごく一般的な情報ですよねえ。学校なら、保健体育や生物の教師が普通に語れるのでは?
しかし講師は、誕生学の必要性についてこう説明していました。「教科書は知識だけ、心が動かない。気持ちを乗せていくことが大切」。と言われても、子宮を〈いのちの部屋〉、膣を〈いのちの道〉と表現する点くらいしか、特徴が見当たらないっす。
感動ポイントをきらきらに飾り立てる
ああでも、あくまできれいなところしか見せない、無修正(モザイクなし)の出産ビデオ(@助産院)上映もありましたね。お母さんが陣痛でちょっぴり痛がって、お父さんが前かがみの姿勢を支え、子どもたちも応援する中、あっと言う間にツルンと生まれるという。「そりゃこんな出産だったらいいだろうよ」という、現実感のないドリーミーな編集です。〈ロマンチック〉にお産を伝える誕生学らしさは、ここに表れていたと言えるかもしれません。
今回の講座の場合は産後の母親向けですから、自分の体験もふり返りつつ「私たちの体、こんなにがんばった! 尊い営み!」と褒めたたえあいましょうといったところ?
まったく同じものではないようですが、子ども向けの誕生学スクールプログラムでも出産映像を見せることがあるようです。でも、それで子どもたちが〈感動〉するかどうかは、全くの謎。しかも、たとえ心が動くとしても、それは単なる映像のインパクトのせいでは? 痛々しい部分を極力排除したロマンチックな編集といえども、膣から赤ちゃんの頭がニュルンと出てくるシーンは、子どもにとってそれなりに衝撃的ですから。
命の誕生が神秘的で感動的なのは、ゆるぎない事実でしょう。しかしこれを教育現場でというならば、先入観を与えずに事実を正確に伝えるべきでは。そして、その内容をどう受け止めるのか、どこに感動するのかは、それぞれの感性や興味によってさまざまであるはず。「教えられてもないのに、自分で羊水の中を掃除することができたり、産道にあわせて体勢を変えられちゃう赤ちゃんって天才だよね!」みたいに、感動ポイントを前面にプッシュされるのって、押しつけがましことこの上なし。