連載

「妊婦さんと一緒だと、いたたまれなくなる」産婦人科の待合室、今昔物語

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大和彩

病気なりに、健康に暮らす。

【前回までのあらすじ】
子宮内膜症治療のための病院探しを本格的に開始した夢子は、訪れた4軒の病院でいわれることが全部食い違っているので驚いているところよ。

*   *   *

 病気で産婦人科を訪れる女性は、待合室で居心地の悪い思いをすることが多いとよく聞くわね。いまはだいぶ改善されてきてはいるけど、夢子が子宮内膜症治療で病院探しに奔走していた10年前、産婦人科はまだまだあくまでも「産婦人科」で、出産を控えた人が行くための場所、という色合いが濃かったの。

 待合室にいる女性が妊娠・出産で来ているか、病気の治療で来ているかは簡単に見分けがつくわ。妊娠で訪れている女性の場合お腹が大きいか、マタニティマークをつけてるから分かるじゃない。一方出産を終えたばかりの女性は、チーム体制で受診に来るから一目瞭然なの。チーム構成員としては、生まれたてほやほやの新生児に付き添いの旦那さんかお母さん、それにきょうだい児が参加してることもあるわよね。

 妊娠している女性や出産直後チームからにじみ出る「慶事」という明るい雰囲気の中、ちっともおめでたくない「病気」をかかえて待合室で待っているのは、普通の神経をした女性なら、たしかにいたたまれないわよね。

 夢子の場合はそこがちょっと変わってるのよね。ほらあのコ、小さいころから結婚も出産もしないっていい張ってたし、大人になっても一切、殿方との出会いを求めることもないじゃない。「妊娠するオンナノヒトは自分とは違う世界のひとたち」みたいに思ってるのよ。実際には結婚して子どもが数人いてもおかしくない年齢なのに、のん気なものよ。

大きなお腹の元同級生と遭遇

 そんな調子だから、夢子はこれまで産婦人科の待合室でいたたまれない思いをすることはなかったのね。けど夢子は決して多数派じゃないわよ。きっとあの待合室が嫌だと思いつつも我慢して通わざるをえない姉妹、たくさんいるわよね。

 地元の産婦人科でもう交流のない元同級生を見かけたときは、さすがに夢子もちょっと焦ってたけどね。「ひさしぶりー」なんつって声をかけたほうがいいのかな、と一瞬思ったんだけど、元同級生はお腹が大きかったし、ふわふわしたマタニティドレスを着ていたの。片や夢子は午後から仕事に戻れるようにオフィスカジュアル、パンツ着用、しかも色合いは黒づくめよ。自分の着ている黒いトレンチコートが急に死神の装束のように思えて、気おくれしてしまったの。

「夢ちゃんは、きょうどうしたの?」
「私はきょう、子宮内膜症疑いで来たんだぁ~」

 そんな会話を、ほかの患者の目があるなか、10年ぶりくらいに会う元同級生と繰り広げるのも変な気がしたし。声をかけたらお互い気まずい空気になってしまいそうなのが怖くて、待合室では見つからないようにコソコソしていたわ。

 そこから10年ほど時間を現代に早送りしてちょうだい。夢子がいつも通っている大学病院の婦人科の待合室に変化があったの。それまでは妊婦さんや赤ちゃんたちと同じ場所で待つかたちだった待合室が「産科」と「婦人科」に分かれていたのよ。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』

産む、産まない、産めない (講談社文庫)