いえ、ぜんぜんいいんですよ、フツーで! すっごいマニアックなシーンをあげられても共感しにくいですし。でも、ここでの“官能”は「色気」「セクシー」「萌え」と言い換えてもなんら不自然ではないものばかり。さんざん知性だと五感だと語った後だけにそれがあまり感じられない紋切り型の“官能”を語られたところで、肩透かし感しかありません。
そもそも官能って何? 辞書的には「肉体的快感、特に性的感覚を享受する働き」ですが、「an・an」的には“エロいとかいうより、な~んかちょっと感度高く聞こえるっぽい言い回し?”ぐらいのものでしょうか。官能ってもっと掘り下げて考えると、現代の性に対する価値観がいろいろ見えてきて面白そうなのですが。
全体的には、自分が“性的感覚”をキャッチするアンテナを養うための企画と、男性から官能的な女性だと思われるためのハウツー企画がごっちゃになっていて、どっちつかずの印象です。特に後者は、そのための小道具として採り上げられているのが、香り、お酒、ランジェリー……これまた見事なまでに紋切り型の“モテテク”ばかり! 知性はどこにいったのでしょう。官能というよりも“お色気大作戦!”といったほうがふさわしく見えました。。
官能小説入門ガイドブックとして読もう
とガッカリ気分で読み進めたのですが、「小説で浸る、官能の世界。」はたいへん充実した内容で、官能小説ビギナーのみならず愛好家にとっても非常に役に立つ特集だと思いました。官能小説家の花房観音さんや、作家の宮木あや子さん、イラストレーターのいしいのりえさん(サイゾーウーマンで長らく官能小説レビューを連載されていますね!)などなど推薦者のラインナップもすばらしければ、採り上げられている作品も納得のものばかり。官能ではない文芸作品からのセレクトもあり、読み応えがあります。
私もこれまであまり意識せずに“官能”“官能的”という語を使ってきましたが、たしかにそこには知的なニュアンスを込めていたような気がします。時代を代表する官能的な女性=“狂わせるガール”を紹介するページで、映画監督の大根仁さんが「エロの中でも官能って『やりてぇ』みたいに即物的なものではなく、それこそ『溺れたい』というもっと深いニュアンスを含んでいる気がします」とお話されていて、腑に落ちるものを感じました。
官能とは、「エロい!」「セクシ~」「濡れちゃう♥」よりも、もう何段階か深いレイヤーにあるエロス。そこにたどり着くには知性あるいは美学の切符が必要……そう考えると私のなかでは、「官能とは、本能的なものとは最も遠いところから、性という本能的な欲求を刺激するもの」という解釈で落ち着きました。まどろっこしいですね~、焦れったいですね~。でもそれこそを愉しいと感じる大人の遊戯ともいえるでしょう。
「官能とは」という大きなテーマは読者が自力で行間から読み取る必要があり、それこそまどろっこしいのですが、官能小説ガイドとしては即戦力です。オススメ!
1 2