手術室から出る沖田に、患者の息子が駆け寄る。一億円の借用書を用意し「ベルギーの王様の家族を手術した先生に担当して欲しい」とお願いしていた息子は、沖田こそその医師だということを知らない。借用書を渡してくれなかったことに怒る息子に沖田は語りかける。「僕たちは全員全力でやってる。患者を救うことしか考えてない」。息子は納得しない。「ごまかさないでください! 子どもや貧乏人がいうことだからって舐めんじゃねえ!」。たまらず井川が息子に「この人がベルギーの先生です」と沖田の正体を明かす。大臣だから、名声があがるから、病院にとって利益になるからといって自ら手術をすると名乗り出た壮大と、どんな患者でも全力を尽くす沖田の対称性がここでもあらわになっていた。
ちなみに沖田と井川、そして柴田の関係は、このドラマの中でもっとも気持ちいいものだ。深冬を除けば、親しい人間を持たない沖田だが、腕のいいオペナース柴田には当初から絶大な信頼関係を寄せ、時には飽きれ、時には怒り、時にはぶつかりながらも、沖田に尊敬の念を寄せる井川とも信頼関係を築くようになっていた。そんな二人だからこそ、沖田は自分の思いを衒わずに話すことができる。術後、三人で焼肉を食べに行き、沖田は二人に話し始める。「父親の手術をしたとき、身内だからって『俺が』って思ってしまった」。そんな沖田に柴田は声をかける。「もうお父さんの手術をしたときの沖田先生ではないですよね。これで大切な人のオペ、できますよね」。「でも、誰かさんに深冬先生のオペできないって言われてね」と沖田に見られた井川は「誰かさん……? 沖田先生にそんなこと…すみませんでした!」と頭を下げ、沖田は「まあその通りだったんだけどね」と返す。即座に「わかってくれればいいんですけど」と調子のいい返事をする井川。軽妙なかけあいが、それぞれの裏表のない信頼関係を感じさせてくれた。
さて、壮大による大臣の手術も始まった。順調に進めていく壮大は、見学者に手術状況を解説する余裕すらみせる。術後、モニター越しにみていた沖田は、壮大に対して素直に感想を伝える。「お疲れ様。見事だったよ。あのプレッシャーの中で脳外のオペをするなんて本当、信じれないよ。やっぱりすごいよな、壮大は」「お前に言われると嬉しいよ、カズ。深冬のオペは俺がやるよ」。その夜、壮大は深冬に自分が手術を担当することを告げた。翌朝、深冬は病院に向かう壮大に声をかける。「話があるから、あとで病院によるね」。
副院長室に集まった沖田、壮大に深冬はゆっくりと話し始める。「私のオペのことでお願いがあります。私のオペは、沖田先生にお願いしたいです」
「なんでカズなんだ! え? カズは腕がいいからか? カズのほうが信用できるからか? 信頼できるのがカズだからか! わかった! 失敗しても、カズなら殺されてもいいからか!」。声を荒げ取り乱す壮大。自分が手術して、沖田に深冬をとられまいと、深冬への愛情を示そうと決め、準備を進めてきた。それなのにどうして。「いい加減にしろよ!」沖田も怒りを露にする。「だって……」。
「いったい何の騒ぎだ」。突然院長の虎之助がやってくる。そして壮大に宣告する。
虎之助「壮大くん、君を解任する」
壮大「え?」
深冬「どういうこと?」
虎之助「この男は、病院を乗っ取ろうとしていたんだ」
壮大「そんなことしてませんよ」
虎之助「じゃあこれはなんだ!」
虎之助が手に持っていたのは、桜坂中央病院との提携契約書だった。実は、壮大の指示で壇上記念病院を桜坂中央病院に飲み込ませる手はずを整えていた羽村が、壮大を裏切り、同じく壮大に裏切られ捨てられた元顧問弁護士で壮大の元愛人・榊原実梨(菜々緒)の手を借り、裏で契約書を入手。虎之助に告発していたのだった。
あまりに突然の出来事に深冬は泣き出す。「お前なにやってるんだよ!」沖田は壮大に詰め寄る。
壮大「誤解だ! 勘違いだ!」
虎之助「いますぐこの病院を出て行きなさい!」
最終回予告では、打ちひしがれた壮大の姿が映されていた。このまま壮大は病院を追放されてしまうのだろうか。壮大を裏切った羽村はどうなるのか。病院の院長を務める父親からこのまま現場に留まるか、自分の病院に戻り経営に携わるかの選択を迫られている井川はなにを選ぶのか。おそらく沖田は深冬の手術を成功させるだろう。だからこそ他の登場人物の物語がどのように収束するのかが気になる。次回放送が待ち遠しい。
(ドラマ班:デッチン)