ええっと、そもそもこの移動した部屋の採光で、片側が思いっきり陰になり、左右均等には見えないのですがね。しかし「うーん、そんな気がするかも?」とお話を合わせて続けてもらいましょう。
S氏「僕はこの些細な変化を感じとりながら、顔のバランスが取れるようにカットしていくんです。だから、ヘアスタイル重視ではないんですよ」
ふ、ふうん。どうでもいいですが先生、私の前のお客をカットしたときの短い髪が、セーターにびっしりついていらっしゃいます。人の禊をする前に、ご自身の御召し物をクリーンにしたほうがよさそうですが。
カット後は、〈禊祓いとアセンションをコンセプトに開発された〉というオリジナルのシャンプーで洗髪タイム。一般的なサロンでのシャンプーよりもシャカシャカと動かす手の動きが細かいのが特徴で、時間も倍以上です。これだけ頭皮をしっかりこすれば、シャンプーの直後、むくみくらいは引くでしょう(この効果をリフトアップ!と謳っているのか?)。
カット&シャンプーが終わり、ドライヤーで乾かしてもらったその仕上がりは……見事な〈ぱっつんヘア〉! そういえば入店時、入れ違いに帰っていった女性が、あまり街では見かけない雰囲気のショートカットだったのですが、あれはショートヘアにも関わらず、フロントもサイドもやたら〈直線〉だったからなのか。〈ヘルメット〉っぽいとでも言えば伝わりますでしょうか。私はロングヘアがセミロングになったくらいのカットでしたが、何か違和感。
S氏「若返ったでしょう?」
若返ったというか、どこか懐かしさを感じるような。店を出てから、編集Mたちと喫茶店で合流すると、「中学生のお母さんカットみたい!(お母さんに切ってもらった髪という意味)」と爆笑。ああ、まさしく、それ。
THE 禊ヘアコレクション
『婦人画報』に掲載されていたS氏プロフィールには〈往年の大女優たちにも支持された、この道50年の“初代カリスマ美容師”〉とありましたが、まったく信じられない~。てか、女優って誰だ。しかしこの〈浮世離れ〉した感じは、占い師などスピ商売の方々なら、いい演出になるのかもしれません。
自宅へ戻り、さて化粧でも落そうかと髪を後ろでひとつにくくると、またひとつ何か違和感。鏡の前で頭を横に向け、毛先に目をやると〈コス好き歴女ならアリかもネ☆〉という、ズドーンとした毛先が存在感を放っています。今どきこんな髪の女、珍しいのではというレベル。
私はど直毛なのですが、今時はどんなサロンでカットしても、それなりに毛先にニュアンスが生まれ、ひとつ縛りにしてもそれなりにさまになるものでした。
普通はボサボサ&ひっつめヘアでも、それなりにオシャレっぽくまとまるもの。