TBS火曜ドラマ『カルテット』、いよいよ佳境です。夢が叶わなかった30代男女4人、真紀(松たか子)、すずめ(満島ひかり)、愉高(高橋一生)、司(松田龍平)が“偶然”出会って軽井沢の別荘で共同生活を送りながら弦楽四重奏を組むところからこのドラマははじまりましたが、“嘘つきは大人のはじまり”。4人はそれぞれ“嘘”や“秘密”を抱えており、全員、真紀を狙って(それぞれ違う意味で)わざわざ出会ったのでした。ひとつひとつの謎が毎回明かされ、張り巡らされた伏線を回収しまくってここまで来ましたが、第八話ラストで最大の謎が投下され、もう視聴者は大混乱、一週間脳内カオス状態だったのではないでしょうか。
二話で司、三話ですずめ、四話で愉高と、彼らの嘘・秘密・過去が徐々に明かされていき、やがて真紀の夫さんで失踪中だった幹生(宮藤官九郎)も姿を現し、紆余曲折を経て離婚に至ったのが前々回。前回は、“全員、片想い”として「愉高→すずめ→司→真紀」の好き好き光線(今となっては死語でしょうか。使用するの小学生以来です……)模様が繰り広げられ、もうみんながみんな片想い過ぎて、切なくて切なくて……、高橋一生に萌えキュン♡でした。
が、ラストシーンで怒涛の展開、衝撃事実が。真紀の元義母・鏡子の元に富山県警の刑事・大菅直木(大倉孝二)と船村仙一(木下政治)がやって来て、“真紀は真紀じゃない、本物の真紀は別にいる”ことを告げたものだから、もうまさかの「まさか」。ってことは、“最後の嘘つき”は、真紀……。
【1話】大量の謎と伏線を散りばめた大人ドラマのはじまり
【2話】松田龍平のストーカー告白、ずるい濡れ場!「捨てられた女舐めんな」「今日だけのことだよ」
【3話】家族を捨ててもいいし、会いたくないなら逃げていい。
【4話】満を持して高橋一生回!夫婦とは、結婚とは、離婚とは…「男って他人の言うことは信じるのに、妻の言うことは信じない」
【5話】面倒な母からも妻からも逃げた「夫」がついに登場
【6話】夫婦が結婚生活を続けられなくなった理由を、これ以上ない説得力で伝えている
【7話】すれ違いを自覚した夫婦が、相手の幸せを願ったら
【8話】両思いは現実、片思いは夢のよう。切なくて苦しい満島ひかりと高橋一生に萌えてしまう
真紀が「普通の主婦」になりたかった理由
そして迎えた最終章・前編こと第九話。真紀の嘘が発覚するきっかけとなったのは、富山で自転車泥棒を働き、捕まった女(篠原ゆき子)が、14年前、闇金絡みの業者に戸籍を売っていと警察に明かしたこと。女は戸籍の売買が罪になると思い込み、住民票を取らず、ツタヤのカードも作れず生きてきましたが、大菅刑事曰く「戸籍って他人に売っても罪にならない」そうです。へぇ……。無知って怖いですね。とはいえ、戸籍売買を行っていた業者には捜査が入り、14年前に、女・早乙女真紀の戸籍を購入したのが、カルテットの真紀だった、と。冒頭、別荘のシーンで愉高が「ホッチキスはステープラー、バンドエイドは絆創膏、ニモはカクレクマノミ。本当の名前を言って」と(いつもの面倒くささで)メンバーに熱弁を奮いますが、では、真紀の本当の名前は。
大菅刑事が鏡子に語った真紀の生い立ちは、こうでした。
「本名は山本彰子(やまもと・あきこ)、富山市出身。10歳の時に母を事故で亡くし、その後、母親の再婚相手である義理の父親に預けられた。その父親から日常的な暴力を受け、家出を繰り返すものの連れ戻されていた。平成15年12月19日、現金300万円で戸籍を購入し、それ以来姿を消した」
14年前、平成15年(2003年)に戸籍を買ったのであれば、真紀は当時23歳です。また、亡くなった母・山本みずえ(坂本美雨!)は、元は売れない演歌歌手で『上り坂下り坂ま坂』というタイトルの曲を発表していました。真紀が時々、口ずさんでいる不思議な曲はこれだったんですね。
そして警察は、真紀が義父の暴力から逃げるために戸籍を買った、とは思っておらず、別の疑いを抱いている様子です。真紀が姿を消したのと同じ頃、義父は心不全で亡くなっているのです。警察は、真紀に殺人容疑をかけている、ということでしょうか。鏡子からこの話を聞かされた幹生(現在コンビニ強盗の罪で拘留中)は、信じられない様子でした。真紀からは結婚の際、「子どもの頃に父親は病気で、母親は事故で死んでいる」と聞いていたようです。
回想、というか鏡子が警察から聞いたことを元に幹生に語った内容が、幼き日の真紀(山本彰子)母子の風景として映し出されます。右手にヴァイオリンケース、左手に楽譜を抱えた10歳の真紀(彰子)は、母・みずえと連れ立って富山の田舎道を歩いていました。長い髪をお嬢様結びしてピンクのコートに身を包み、赤い靴を履いた真紀と、上品な装いの母(およそ演歌歌手らしさは皆無)。田舎の風景が似合わない母娘です。2人が風に飛ばされた楽譜を拾っているところに、下り坂を降りてきた中学生の少年(12)の漕ぐ自転車が衝突……。真紀をかばった母は亡くなり、遺された真紀は、義父(母の元再婚相手)に預けられます。
自転車事故の被害者遺族である真紀には加害者家族より賠償金が支払われ、その額、2億円。弟の誕生を心待ちにしていた加害者の少年は、産院に駆けつける途中にこの事故を起こし、結果、家族は家と職を失い、少年が弟と暮らすことはできなくなり……それでも被害者遺族である真紀の家族、すなわち義父は12年間に渡って賠償金を請求し続けました。12年間というのは、つまり、真紀が失踪する前までということ。義父は賠償金で真紀をバイオリン教室や大学に通わせました。その一方で、真紀の顔には痣ができていることもあったそうです。このお話がどこまで事実か、誤解をどれくらい含んでいるのか、まだ油断はできませんけど。