どこまでが紗倉まなの実体験に基づいた物語なのかは定かではない。しかし、少なくとも彼女は、両親や祖父母をひとりの人間として捉え、「男」「女」という視点で考察している。この視点は、彼女の言う“普通の家族の普通の父性/母性と言われているモノ”の中で育っていると、忘れてしまうどころか気づかない人も多いだろう。
そして、彼女は本書の中で、自分なりに『父性とは何か』について答えを出した。
紗倉「母性というのは、とてもわかりやすいものだと思います。母親というのは、『産んで育ててくれる』という、とてもわかりやすいものだからです。じゃあ、父性とは一体なんだろう。そもそも、お父さんの存在意義って、なんだろう。両親に抱く疑問というのは、自分が親になってからでないとわからないものなのかもしれないし、もしかしたら親になってもわからないものなのかもしれません。父性、それと対極する母性、そこを掘り下げていった結果、『凹凸』というひとつの作品にまとまりました。ぽっかりと心に穴を開けたひとりの女の子が、ひとつの幸せを掴むまでのお話になっています。幸せの参考書ではありませんが、この話が誰かの心の灯になれば幸いです」
家族の形が多様化する昨今。“普通の家族という価値観”に翻弄される人のみならず、その家族観を信じて疑わない人にこそ読んでほしい作品である。
(messy編集部)