子宮内膜症であることを職場の人からは絶対に隠す。かたくなすぎるその思いは夢子にいろんな気苦労をもたらしたの。
夢子は病院に行くたびに有給をお願いしていたのね。そのたびになんやかんやと通院をカモフラージュする理由を考えて申請しないといけないでしょ。ちょっとしたことだけれど、年に何回もとなると、不器用な夢子には精神的に負担だったの。
悪いことをしてるわけじゃないのになぜこんなに後ろめたい思いをしなければいけないんだろう? 病気のことを正直に打ち明けて「通院のために半日休ませてください!」と直球でお願いできたなら心も爽快だろうに、と夢想するけれども、そんなときあのひと言がリフレインするのよ。
「アンタいったい、いままで何人のオトコとやったんだい!」
お母さまにいわれたあのひと言の負のインパクトは強かったわねぇ。そのたびに新たにする「誰にも秘密、ゼッタイ」という決意は、岩のように積みあがって夢子の心を重くするばかりだったの。
ピルの服用=トップシークレットに
夢子は薬についても、同じく思い詰めていたの。「ピル」を飲んでいることも、絶対に秘密にしたい。だってピルには「性的に奔放な人が使うもの」という偏見があるみたいだから。仕事を続けるためにもピルは絶対必要なのに子宮内膜症であることもピルをのんでいることも絶対に秘密。いろんな「絶対」や「秘密」は夢子を蝕んでいくばかりだったの。
ほら、ピルを処方してくれる医師を見つけるのにあんなに苦労したでしょう。やがて夢子はこんな不安にまで悩まされるようになったわ。
「災害が起こって、かかりつけの婦人科に行けなくなって、手持ちのピルがなくなったらどうしよう! 日本では、子宮内膜症は高血圧や糖尿病とは扱いが違う。避難所にいる医師に『子宮内膜症なのでピルを処方してください』といって、通じるだろうか?」
そんなこと、できる範囲で常に準備しておく以外どうにもできないじゃない? 追いつめられてたんでしょうねぇ。あれこれ考えてもしょうがないことまで心配してクヨクヨするまでになってしまったの。
募る一方の孤独感と、眠れない日々
ピンチのときに金銭的に頼れる人も病気であることを共有できる人もいない。そんな環境は、ひと言でいうと「孤独」だったわ。
絶対内緒、絶対秘密、誰にもいわない! 嘘をついてでも病気であること、そして飲んでいる薬のことを隠したい。ひとつひとつは小さなことでも、積もり積もってけっこうな精神的負担になっていたのよ。
ガン疑いだのお薬の種類だの病院選びだの、感情はいつもジェットコースター状態なのに、「絶対秘密」のせいで表向きはしれーっと過ごさなくちゃならないじゃない。心は積みあがった岩でぱんぱんになってときどき破裂しそうになるの。恐怖や不安で叫び出しそうになっているに、声が漏れないようにいつも口を覆ってこらえているような状態ね。